春、日本列島はいちご色に染まる 日本全国いちご図鑑 第11回(全13回) 現在、品種登録されているいちご品種は全国で300を超え、作付けされる主要品種は70以上。これだけ多種多様ないちごを味わえるのは世界において日本だけかもしれません。晩秋から春にかけて、日本列島を席巻する甘酸っぱい赤い宝石「いちご」の魅力を深掘りします。
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いちごの秘密
半世紀以上にわたっていちごの収穫量日本一を誇る栃木県。「いちご王国」を名乗る同県には、全国で唯一となるいちご専門の研究所があります。その名も「栃木県農業試験場いちご研究所」。
栃木市に建つ、いちご研究所。県内外の生産者や学生が年間1000人来訪し、いちごや農業について学ぶ。いちごの新品種や新技術の開発から、経営・流通・消費動向の調査分析、技術研修や情報発信までを手がけています。
現在、多種多彩ないちご品種がありますが、世に出るまでには長い道のりがあります。まずは手作業で交配し、約1万個の種を蒔いて育てます。そして、6人の研究員がすべて食べ、おいしいものだけを選抜。「1人が食べるいちごの量は、年間約4000個とも」と、特別研究員の松本貴行さんは話します。
交配1年目のいちごのハウスで、実ったいちごの状態を確認する松本さん。2年目には約300系統に絞られ、味に加えサイズや収穫量、開花の早さ、病虫害への強さも評価。これを繰り返し、6~7年目に残った1~3系統のみが品種登録出願の検討へ。最近では「とちあいか」や「ミルキーベリー」が誕生しました。
上からとちおとめ、とちあいか、ミルキーベリー。こうした品種改良に加え、トンネル栽培からハウス栽培、夜冷育苗などの技術革新により、元は露地栽培で5月だったいちごの収穫開始時期をクリスマス前まで早めるとともに、収穫量を増やしてきたのが栃木県のこれまでの歩み。日々、地道な努力と熱心な研究が続けられています。
いちご研究所では、蛇口もいちご形。研究所のロビーに立つ、松本さん(右)と江森さん。栃木が「いちご王国」である理由
栃木のいちごは5冠王
令和3年産まで、栃木県のいちごは54年連続で収穫量日本一、21年連続で作付面積日本一、単収(10アール当たりの収穫量)も日本一。さらには令和2年産まで26年連続で農業産出額日本一、平成30年から令和2年まで平均した世帯当たりのいちご購入数量も日本一と、いちごの5冠王を誇ります。
日本のいちご作付面積農林水産統計データ「野菜生産出荷統計(令和3年度)」より大消費地に近い立地条件東京をはじめ大都市の消費地が近い土地柄、収穫したてのいちごのおいしさをそのまま届けられるのは、栃木県の強みです。
栃木県産のいちごは、さまざまな商品に。恵まれた自然条件いちごは一般的に、開花からの積算温度が600度になると成熟に至るといわれます。つまり、日照が強く温度が高めで早く成熟してしまうと、赤みやサイズの生長だけが進んでしまい、甘みやうまみの蓄積が追いつかない結果に。適度に日照があり、温度が低めで、ほどほどの日数をかけて成熟していくことで、甘みやうまみののったおいしいいちごになります。
栃木の気候は冬場の日照時間が長く、夏と冬、昼と夜の寒暖差が大きいため、いちごの栽培に最適。ミネラル分を多く含んだ豊富な地下水源と、肥沃で水はけのよい土壌にも恵まれ、赤く色づく時期に日光をたくさん浴びることで、おいしいいちごが育まれていきます。
【豆知識】
日本で初めて開発された品種は?日本の園芸界の第一人者・福羽逸人が「内藤新宿試験場」(現在の新宿御苑)で、フランスから取り寄せたいちごの種子の品種改良を重ね、明治30年代に国産いちご第1号となる「福羽(ふくば)苺」を作出。多くの日本のいちご品種の礎となった。
撮影/本誌・西山 航 取材・文/瀬戸理恵子
『家庭画報』2023年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。