注目の人・宮沢りえ
経験を経て変わった“怖さ”の意味
常に作品を通して進化を遂げ、ミューズ的な存在であり続けている宮沢りえさん。演劇に挑んだ初期の頃と磨きのかかった演技で高い評価を受ける今の“自分”のそれぞれにあるものは何か。確実にキャリアを積んできた彼女が、女優として実感していることを言葉にしてくれた。
「(坂東)玉三郎さんが演出された泉 鏡花の『海神別荘』に出演させていただいたときは、まだ“演じる”ということへの自覚は今よりも薄かったと思います。玉三郎さんは女方としてご自分も演じていらっしゃるので、役を演じるうえで指先までどう表現するかということを丁寧に教えてくださいました。それを忠実に演じるということに必死でしたね。それと同時に“舞台の上に立って呼吸すること”を教えていただいた機会でもありました。
その時と何が変わったのだろうかと考えると、今の私は演出家のかたを驚かせたいとか、自分の意思や自分の中に入れた役の魂を演出家のかたにぶつけたいという思いがあります。最初に舞台に立ったときよりは少し自立した人になれたとは思いますが、今のほうが舞台に立つことへの“怖さ”があります。でも、失敗することへの恐れではありません。それは観に来てくださるお客さんに対して、誠実であり続けたいということです」
「挑戦することが、芝居の喜び」。フィリップさんのこの言葉が私の背中を押してくださいました ── 宮沢りえ
演じれば演じるほど、より深いものを目指す。そんな宮沢さんがトルストイの長編大作である『アンナ・カレーニナ』のタイトルロールを演じる。
「自分の感情のままに人を愛していくという女性で、そのまっすぐな生き方にも彼女なりの葛藤があって、ただ単に強い女性だとは思いません。すごく人間味に溢れている人ですね。絶望を感じている人を演じるのはとても苦しいことですが、生命力に満ちた彼女の激しい生き様には共感する面もあります。真似はしたくはありませんが、“幸せとは何か”ということを問われる作品だと脚本を読んで思いました。
演出のフィリップ・ブリーンさんが上演台本も手がけていらっしゃるんですが、原作に緻密に描かれているストーリーからフィリップさんがピックアップしてフォーカスしたストーリーには今の時代を生きる人たちにも当てはまることがたくさんあると思いました」