3度目の「三月花形歌舞伎」では三大狂言のひとつである『仮名手本忠臣蔵』がダブルキャストなどの趣向を凝らして上演される。名場面として有名な五・六段目で、自身にとって初役となる早野勘平に挑む中村壱太郎さんに話を伺った。
「AプロとBプロで上演する意味は、配役が違うということもありますが、演じ方や演出がまったく違うということも楽しんでいただけるのではないかと考えました。Aプロの僕は祖父(4世坂田藤十郎)の上方の型で、Bプロの勘平役の尾上右近くんは音羽屋型でそれぞれ演じます。
事の発端である大序から四段目までは、僕と右近くんが交代で説明して、その流れで五・六段目を上演します。七段目以降は舞踊で表現して、外題の“雪の討入”とあるように象徴的な討ち入りの場面は踊りでご覧いただく構成にしました。同世代が『忠臣蔵』を知らないことに危機感を感じて、それを体現して伝えるのが僕らの使命だと思っています」
女方を得意とする壱太郎さんがなぜおかるではなく、勘平を選んだのか。
「お客さまに“面白そうだな”って思っていただけることを企画しました。今回教わる(市川)猿之助さんが2012年に新橋演舞場で勘平をなさったとき、さらにコロナ禍のもとで『図夢歌舞伎』で演じられたときを拝見していますが、祖父の生き写しのようでした。
祖父の型で演じられている猿之助さんからの“あなたのおじいさんに習ったことをすべてあなたに返す”という言葉に、背中を押していただきました。“芸”が血でなくとも伝わることを肌身で体現なさったかたから教わるのはありがたいです。これまではおかるやお才に目が行きましたが、今はどうやって腹を切るのかなどを真剣に見ています。役者の歌舞伎を観る目線が変わるのを実感しています」
今月の歌舞伎
【南座】
三月花形歌舞伎
『仮名手本忠臣蔵』の早野勘平(A プロ・中村壱太郎)。ⓒ松竹次世代を担う花形俳優が『仮名手本忠臣蔵』にAプロ、Bプロのダブルキャストで挑みます。出演者は中村壱太郎、尾上右近、中村鷹之資、片岡千之助、中村莟玉ほか。
~2023年3月26日
午前の部11時、午後の部15時30分開演
解説〈仮名手本忠臣蔵のいろは〉
大序より四段目まで
一、『仮名手本忠臣蔵』五段目・六段目
二、『忠臣いろは絵姿』
上の巻 花の山科 下の巻 雪の討入
1等席 1万1000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
公演の詳細は歌舞伎公式総合サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp
【歌舞伎座】
歌舞伎座新開場十周年 三月大歌舞伎
~2023年3月26日(20日は休演)
●第一部 11時開演
『花の御所始末』
●第二部 14時40分開演
一、『仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平内の場』
二、新古演劇十種の内『身替座禅』
●第三部 17時45分開演
一、『髑髏尼』 二、夕霧 伊左衛門『廓文章 吉田屋』
主な出演者は坂東玉三郎、中村雀右衛門、中村鴈治郎、中村芝翫、片岡孝太郎、松本幸四郎、尾上松緑、片岡愛之助ほか。
1等席 1万6000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
【IHIステージ アラウンド東京】
木下グループpresents『新作歌舞伎ファイナルファンタジーⅩ』
不朽の名作ゲーム『ファイナルファンタジーⅩ』が歌舞伎化される。360度で展開されるステージと超巨大スクリーンの映像など、画期的な手法で壮大な世界観に没入できる世界初演の話題作。
主な出演は尾上菊之助、中村獅童、尾上松也、中村梅枝、中村萬太郎、中村米吉、中村橋之助、尾上丑之助、上村吉太朗、中村芝のぶ、坂東彦三郎、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六/尾上菊五郎(声の出演)。
~2023年4月12日(3月22日、29日、4月5日は休演)
前編12時、後編17時30分開演
SS席(各編)1万8000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン スタイリング/木村厚志 ヘア&メイク/永井絵美子〈JOUER〉
『家庭画報』2023年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。