365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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鮮やかな黄色の花が長い房いっぱいに咲くと、輝くような明るい景色に。■属科・タイプ:マメ科のつる性落葉花木
■花期:4月下旬〜5月
鮮やかな黄色の花房に多くの人が魅了されます
キフジ(黄藤)、キバナフジ(黄花藤)などとよくいわれ、フジの花色違いと思われがちですが、キングサリはフジとは別種の花木です。フジはマメ科フジ属で学名はウィステリア・フロリバンダ。キングサリはマメ科キングサリ属で、学名はラバーナム・アナギロイデス。欧米では学名を略してラバーナムとよく呼ばれています。
5月にイギリスを訪ねると、満開で輝くように美しいキングサリをよく見かけます。ロンドンの街中でもよく植えられていて、シンボルツリーとして人気があるのだなーと感じました。
あるとき、ロンドンで長く暮らし、日本の旅行会社に勤めている友人に尋ねられました。
「ラバーナムの日本名は何?日本からのお客さまによく聞かれるんだけど、ラバーナムと教えてもみなさんピンと来ないみたいなの」。
英名のゴールドチェーンをそのまま訳してキングサリだと教えました。当時は日本ではそれほど広く普及していなかったので、ラバーナムという名前にはなじみがないものの、フジをよく知る日本人には、まるで黄色のフジのようなキングサリに魅了される方が多く、名前を知りたかったのだと思います。
イギリスのカントリーサイドで見かけたキングサリ。花房は短めですが、これほどたくさんつける姿は日本ではなかなかお目にかかれません。キングサリが日本でなかなか普及しなかったのは、原産地による性質の違いが大きいと思います。フジは日本原産なので、日本の環境にも適応しやすく、個人邸でもよく栽培されています。
それに対し、キングサリはヨーロッパの中部〜南部が原産。耐寒性はあるものの、日本の高温多湿に弱いのです。さらにカミキリムシに幹の根元付近に卵を産み付けられると枯れてしまいます。
長野県の観光ガーデンで、イギリスの庭でよく見かけるキングサリのトンネル仕立てにチャレンジしたそうですが、3年めくらいでカミキリムシにやられてしまい、残念ながら断念したという話も聞きました。
最近では、栽培のノウハウが広まり、キングサリも各地で見られるようになっています。上手に根付かせることができれば、剪定は日本人ならお手の物。イギリスで見たものよりずっと花房が長いキングサリを楽しめるようになっています。
まだ観光ガーデンでの栽培が中心ですが、苗も多く出回るようになり、個人邸での栽培もこれから増えてくると思います。散歩の途中で何カ所も、輝くキングサリの景色を見られる日を心待ちにしています。
栽培の難易度
日なたを好みますが、夏の強い西日は回避でき、風がよく通る場所を選ぶことがポイントです。水はけのよい土壌に元肥を施して植えつけます。幼木のうちは土壌が乾いたら水やりをします。成木になってからは雨まかせでかまいません。花後に込み合った箇所を透かすような剪定を行います。長く伸びすぎて樹形を乱す枝も切り落とします。翌年以降は1月に緩効性肥料を株元に施します。幹の根元に穴が空いていないかを随時チェックします。穴が空いていたらカミキリムシが中に卵を産んでいる可能性が高いので、穴に棒などを差してほじくり出します。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。