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がんになった医療者の治療選択と向き合い方。診療放射線技師 林 祐樹さん 第1回(前編)

2018.03.02

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軽く考えていた肩の痛みは骨肉腫の症状だった


林 祐樹さん(31歳)は、堺市立病院機構堺市立総合医療センターに勤務する診療放射線技師です。ふだんはCT(コンピューター断層撮影)検査、X線透視検査、核医学検査を主に担当しています。

林さんは14歳、中学3年生の秋に左肩の骨肉腫と診断されました。「肉腫」は骨や軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)にできる悪性腫瘍の総称です。小児がんには白血病、脳腫瘍などさまざまな種類がありますが、骨肉腫は白血病などと比べるとそれほど多いがんではありません。全年齢でみても50万〜100万人に一人というごくまれながんで、子どもや若年者に多く、特に肩、膝、股関節などの骨幹端部付近(骨が伸びる部分)の骨芽細胞ががん化する例がよくみられます。

関節や骨の痛み、腫れ、手足を動かしにくいといった症状で受診した際に見つかることがほとんどで、林さんもそうでした。体育の授業で跳び箱を跳んだときに肩に電気が走ったような痛みがあり、冷湿布を貼 っていましたが、1週間ほどしても痛みが治まらないため、近所の病院を受診したのがきっかけです。


「制服を着ると肩が重く感じる、学生かばんが重いとはいっていましたが、成長痛かもしれないし、たいしたことはないと思っていました」と父親の精治郎さんは当時を振り返ります。

X線検査の画像を見た整形外科医は、「祐樹君、もう1枚X線写真を撮ってきて」と林さんを診察室から検査室に向かわせ、その間に精治郎さんに「肩関節に腫瘍があり、悪性の可能性もある」と話して、専門医を紹介しました。「祐樹にはそのことを話しませんでしたが、妻(朝恵さん)と2人で不安な数日を過ごしました」(精治郎さん)。

その後、他院で撮ったMRI(磁気共鳴画像)検査の画像を持って、紹介された国立大阪病院(現・国立病院機構大阪医療センター)の整形外科医、家口 尚さんの診察を受けました。たまたま林さんが朝恵さんと妹の春菜さんと待ち時間に買い物に行った間に診察室に呼ばれた精治郎さんは、家口さんから林さんが骨肉腫であることを聞きました。

そこで、「息子は気が小さいので、黙っていてほしい」と頼んだところ、家口さんは本人にも知ってもらわないと病気と闘えないと説明しました。子どものがんは、年齢や病状にもよりますが、本人に告知し、治療に関してもできるだけ説明するのが原則で、「自分の体の異常について知ることで治療を受け入れられるようにするのが大切なのです」(家口さん)。

林さん自身は告知を受けたときのことを覚えていませんが、その場で三角巾を巻かれたこと、もともと苦手な注射が続いて気分が悪くなったことは記憶しています。

精治郎さんと朝恵さんは治療の内容やスケジュールの説明を詳しく受けたものの、「頭にちゃんと入りませんでした。深刻な病気の話をしているにもかかわらず、祐樹の風疹の予防注射の日が迫っていたため、家口先生に予防注射をお願いしました。自分でも変なことを話しているなと思いました」と朝恵さん。

そんな中でも家口さんの「必ず治ります」という言葉に両親は希望を抱いたといいます。ただ、骨肉腫という病気の情報が少なく、精治郎さんと朝恵さんは自分たちが子どもの頃に見たテレビドラマ『サインはV』の準主役が骨肉腫で亡くなってしまったことを思い出して、暗い気持ちになりました。

林さんの入院までの数日間、林さんにわからないように家の2階で朝恵さんが泣いているのを何度も見た精治郎さんもまた、耐えきれずに階下で静かに泣いたといいます。

(次回に続く。3月9日更新予定。)

「中学校の制服や学生かばんを重いと感じたこと、体育の時間に肩に痛みを感じたことを放置せず、診察を受けたことが発見につながりました」

取材・文/小島あゆみ 撮影/八田政玄
写真提供(2、3)/林 祐樹さん

「家庭画報」2018年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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