織りのきもので、どこへでも
譲り受けた梔子(くちなし)色の紬姿で、大好きなヴォーリズ建築のひとつ「山の上ホテル」へ。“ちょっと、そこまで”という気分できものを装いたいという阿川さん。手習いはじめはお母さまが日常的に着ていた紬から。箪笥の中から何枚も出てきたのが、“しゃっきり”とした雰囲気に愛らしさが漂う格子柄の紬でした。
「母にとっては毎日の装い、手軽に半幅帯なども締めていました」と、その面影を手繰り寄せます。
今回は、クラシックな佇まいに品格が宿る「山の上ホテル」で撮影ということもあり、気取りのない紬のスタイルにひと匙の緊張感を感じさせる帯合わせを思案。選んだ無地の紬の帯は浦野理一作。節糸の力強さ、赤みを含んだ奥行きのある茶の表情、独特の存在感が洒脱な格子に存在感を与えます。
そのほか、単衣の季節に落語会へ行くなら爽やかなブルーの小格子を。初夏を迎える頃のギャラリー散歩なら、柳色の絵絣が優しい味わいの紬を……とお出かけの妄想が膨らみます。
この帯は阿川さんからお母さまへプレゼントしたものだそう。そんな思い出も一緒に纏って。左/こちらの単衣の紬を纏ったお母さまの姿が、今でも鮮やかに蘇るという阿川さん。“夏の黒は透け感が美しく涼を運ぶ”というセオリーに倣い、露芝の名古屋帯をコーディネート。右/ブルーの小格子が清々しい単衣の紬は、5月から活躍。しゃっきりとした締め心地の博多帯を合わせたら、大相撲や落語など江戸前のお出かけへと心誘われて。
阿川佐和子(あがわ・さわこ)
©Akinori Ito作家・エッセイスト 1953年東京生まれ。大学卒業後、テレビ番組でのリポーターを機に、報道番組でのキャスターや司会を務める。映画やドラマに出演するなど女優としても活躍。『週刊文春』(文藝春秋)では対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」を、『婦人公論』(中央公論新社)、『波』(新潮社)他では多くのエッセイを連載。テレビ朝日系列『ビートたけしのTVタックル』にレギュラー出演中。『母の味、だいたい伝授』(新潮社)他、著書多数。