365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
一覧はこちら>> ヒメシャガ
観光ガーデンで、ヒメシャガが上品な青紫色の花を咲かせていました。シャガより葉色が薄い緑色なので、株姿が明るい印象になります。■属科・タイプ:アヤメ科の宿根草
■花期:5月〜6月
■草丈:10〜30cm
日本の固有種。淡い青紫の花色が心に染み入ります
4月上旬、毎朝通っている大きな公園にたくさんのシャガが咲き出します。このシャガを見るたびに、もうすぐ私の好きなヒメシャガも咲き出すと楽しみな気持ちになります。
子どもの頃に暮らした家の門の脇には、大株に育ったヒメシャガがあり、5月〜6月にかけて、何とも上品な淡い青紫色の花を次から次へと咲かせていました。この花色を着物の八掛にしたらすごく素敵だろうなと、歩くたびにちらちらと見えるヒメシャガ色の八掛を思い描いたりしていました。ドレスではなく、着物を連想させたのは、ヒメシャガが日本原産の固有種だったためかもしれないと、今になって気付きました。
自宅の周囲ではよくヒメシャガが咲いていましたが、本来は山地の林床などで育つ花で、今では自生する環境が少なくなり、環境省のレッドデータでは、準絶滅危惧種に指定されています。
シャガもヒメシャガもアイリスの仲間で、シャガの学名はイリス・ジャポニカといいます。これも日本原産かと思われそうですが、じつは中国東部からミャンマーにかけてが原産です。学名にはあとで判明した原産地などが反映されずに継続されている場合もあるのです。日本には古い時代に渡来し、帰化植物となっていますが、日本に渡来したシャガはタネをつけない性質であることが知られています。
花でシャガとヒメシャガの区別がつかない場合は、冬まで時間をおいて確認してみてください。落葉性のヒメシャガは冬に地上部がなくなりますが、シャガは常緑性なので冬の間も葉を茂らせているため、明確に違いがわかります。
散歩道ではシャガを見かける機会のほうが多いのですが、5月に入ってから咲き始めるヒメシャガもぜひ探してみてください。栽培はそれほど難しくないので、ご自宅でも庭に植えたり、鉢植えで楽しむことができます。
栽培の難易度
ヒメシャガには耐陰性があり、強い直射日光を嫌います。朝だけ日差しが当たる場所、または明るい日陰で、風通しのよい場所に植えます。植えつけ時に元肥を施し、たっぷり水やりしたら、その後は雨まかせでかまいません。追肥の必要はありません。花が終わったら花茎の根元から切り取り、葉は自然に枯れるまでそのままにしておきます。大株に育ち、葉が密集してきたら2月下旬〜3月に株分けします。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。