手術と術前・術後の抗がん剤で治療
子どもの骨肉腫は発見が早いか遅いかによって、その後の経過に大きな差が出ます。発見が遅く、病巣が急速に大きくなっている場合、肺などに転移している場合などでは予後が悪く、治療が難しくなります。病巣が血管や神経を包み込んで切除しにくくなっていると、命を救うために腕や脚を切断しなければならないこともあります。
一方、骨肉腫の原発が四肢の骨で、初診時に転移がなければ、現在の20年生存率は60%以上と報告されています。また、画像診断や手術などの向上で、四肢の切断に至る例もほとんどなくなりました。
診断の翌週に入院した林さんは、肩を小さく切開して生検を受け、骨肉腫と確定診断を受けました。画像検査で腫瘍の大きさは7センチとやや大きく、リンパ節転移や肺などへの遠隔転移はないことがわかりました。
骨肉腫の治療は、部位や大きさ、病理所見によって異なりますが、当時も今も、メトトレキサート、シスプラチン、アドリアマイシン、イホスファミドといった抗がん剤治療と手術が主になります。抗がん剤治療を手術の前に行って、がんを小さくしてから手術をする術前化学療法も一般的です。
林さんも生検のときに留置したカテーテルを通して、術前に4クール、術後に8クールの抗がん剤治療を受けました。
「抗がん剤の副作用で吐き気がしたときさきいかのにおいをかぐと楽になりました。同室の友人たちもそれぞれの“吐き気止め”を持っていましたね」
子どもは一般に大人に比べると抗がん剤に耐えられることもあって、抗がん剤の治療をできるだけ徹底します。ただし、林さんが治療を受けた当時は今ほど抗がん剤の副作用を軽減する支持療法が発達しておらず、吐き気止め(制吐剤)も普及していませんでした。林さんは抗がん剤の使用中、嘔吐に苦しみました。「大好きなさきいかのにおいをかぐと吐き気がなくなるのを発見して、しょっちゅうさきいかを入れた瓶を開けていました」。
最もつらかったのが全身けいれんで、死の恐怖を味わいました。抗けいれん薬の注射で体が緩んでいく感じを林さんは今も覚えているといいます。
現在、子どもの骨肉腫の抗がん剤治療では飲み薬も使われるようになりました。入院中の外泊、一時退院なども以前よりも認められるようになり、また入院1日あたりの定額支払い制度の導入、手術やリハビリテーションの進展もあって、入院期間を短くする傾向になっています。