家康公が好んだ名物の味
偏食をせず、バランスのよい食事を心がけていた家康。鷹狩りで仕留めたツルなどの動物性たんぱく質や旬の野菜、駿河湾の新鮮な魚介を好み、お酒とのつきあい方も上手でした。そんな家康が愛した食べ物が、今でも愛知と静岡でつくり続けられています。
松尾芭蕉の俳句や歌川広重の浮世絵に残された東海道の宿場のとろろ汁。自然薯は、古くから滋養強壮に効くと知られていましたから、家康も好んだことでしょう。
また、家康が金山を巡検した際、安倍川と金山の金粉にちなんで、「安倍川の金な粉餅」として餅が献上され、家康がその機智をほめたことから、その名がついた安倍川餅。
一方、浜松では土地のお酒と納豆を好みました。疲労回復効果と解毒作用のある忍冬(すいかずら)を使ったお酒や、大豆を塩漬けして発酵させた古くからの保存食もお気に入りでした。
長篠の戦いに出陣した折、家康が兜に盛って戦勝を祈願したという饅頭は戦いの場での保存食の一種であったようです。家康が愛した味は現代人にとっても健康的なものばかり。天下取りにも有効であったことが頷けます。
安倍川餅
安倍川餅は、安倍川付近にたくさんあったお茶屋の中で現在唯一残っている「石部屋」に伝わっています。遠州で砂糖きびが栽培されたことから、貴重な白砂糖をのせるようになり、大変な評判になったそう。つきたてのお餅を注文ごとに湯せんし、ひと口大にちぎっているので、ふんわり柔らか。今はきな粉とあんの2種類。「あべ川餅」800円。
あべ川餅 石部屋静岡市葵区弥勒2-5-24 TEL:054(252)5698(営)9時~16時30分 木曜定休(祝日の場合は前日休み)
とろろ汁
1596年、東海道の丸子宿にお茶屋として開業以来、とろろ汁ひと筋。レシピは時代と共に変遷し、今は、すりおろした自然薯にまぐろの煮汁、卵、醤油を加え混ぜ、かつおだしの味噌汁でのばしています。ご飯にたっぷりかけて混ぜ、自然薯をふわふわにしていただくのが「丁子屋」流。食べ飽きない上品な味わいです。「丸子」1630円。
とろろ汁の丁子屋静岡市駿河区丸子7-10-10 TEL:054(258)1066 (営)11時~14時(平日) 11時~15時、16時30分~19時(土曜・日曜・祝日) 木曜定休(月末の水曜は定休)
忍冬(にんどう)酒
撮影/本誌・伏見早織スイカズラを使った忍冬酒を、漢方薬にも凝っていた家康が気に入り、全国的に名声が高まりました。将軍献上酒であり、参勤交代で東海道を行き来した大名も買い求めたそう。どちらもふくよかな味。左・静岡県浜松市で太平洋戦争中に製造が中止され、1997年に復活。現在は改良を重ねた3代目。500ml1650円。右・愛知県犬山市で1597年来、一子相伝で造られてきた一本。540ml2300円。
小島醸造(右)愛知県犬山市大字犬山字東古券633 TEL:0568(61)0165(営)10時30分~16時30分 不定休
浜松
忍冬酒の会(左)(問)酒&FOOD かとう TEL:053(485)3536(営)9時~19時 水曜定休
大福寺納豆
撮影/本誌・伏見早織明時代の中国から浜名湖湖北にある大福寺に造り方が伝来し、今も造り続けています。家康は献上を待ちわびたほど気に入っていたとか。発酵させた大豆を乾燥し、山椒の皮で香りづけした深いうまみが特長。徳川将軍家の正月の祝い酒に欠かせないものでした。「浜納豆」の名前で遠州各地にも伝わっています。お茶請けやお酒の供、調味料に。1袋800円。
大福寺静岡県浜松市北区三ヶ日町福長220-3 TEL:053(525)0278(営)9時~16時 不定休
本饅頭
撮影/小林庸浩家康が戦場で兜に盛って黒本尊に戦勝祈願したことから「兜饅頭」とも呼ばれます。大納言あずきの入ったあんを極薄の皮で包んで蒸し上げています。あっさりとした甘みと上品な口あたり。江戸幕府開府と共に、お店は幕府御用となり、本饅頭は家康のみが食べられる御留(おとめ)菓子とされました。その技は、選び抜かれた職人によって脈々と継承されています。1個432円。
塩瀬総本家東京都中央区明石町7-14 TEL:03(3521)8811(営)9時~19時 日曜・祝日定休