幸せな最期とはどういうものでしょうか?──松岡さん
「最期の瞬間まで、一人の人間として尊厳を持って生きられること」──山崎先生
松岡 先生のお話を伺っていて、幸せに死を迎えたいなと思ったのですが、先生は、幸せな最期とは、どのようなものだと思われますか。
山崎 まず、医者や家族と本音で話し合えて、自分の現状を知り、納得できることが大事だと思います。“満足する”ではなく、“納得する”。
松岡 自分の置かれている状況を受け入れるということでしょうか。
山崎 そうですね。そのうえで、亡くなるときに「精一杯生きた」と思えて、周囲に対して「ありがとう」といえれば、それがまさしく幸せということなのではないでしょうか。
「あらまほしき」でなく「あるべき」次の世界
山崎 ところで、私は患者さんに時折、死んだらどうなると思うか聞くのですが、松岡さんはどう思いますか?
松岡 僕は、死んだら何もなくなっちゃうと思っています、今のところは。
山崎 そういう人もいますね。ただ、死に直面している患者さんたちに聞くと、半数以上の人が「次の世界があると思う」というんですよ。私はそれに対して「あるといいですね」と答えていましたが、今は「ありますよ」と答えています。
死がそう遠くないものになってから、次の世界が「あらまほしき」から「あるべき」に変わったのです。そうでないと、話のつじつまが合わないと感じる(笑)。そして、患者さんに次の世界で会いたい人を尋ねると、大半の人が母とおっしゃる。そこで「じゃあ、私はお母さんにバトンタッチするまでおつきあいしますね」というと、患者さんも「よろしくお願いします」と返してきます。次の世界があると思えば、死んでいくときも「この世界ではありがとう。また会おうね」となる。
松岡 次の世界があると考えることで前向きな気持ちになれる人は多いでしょうね。僕もいずれ考えが変わるような気がします。今日は大変貴重なお話をありがとうございました。
修造の健康エール
山崎先生は2度目の抗がん剤治療を医師からすすめられた際、副作用と闘いながら自分らしく生きることはできないと考えて断られました。その先生に自分らしく生きるとは?と尋ねたところ、「いつでもベストを目指すこと」と力強いお返事がありました。
体が動くときと動かないときとでは当然目指せるものは違うけれど、そのとき自分ができるなかで、いちばんやりたいことを実現させようとすることが大事だとおっしゃいます。先生ご自身が体現されているとおり、どんな状況にあっても、人は自分らしく生きることができるということですね。
僕はこれまで漠然と「穏やかに死にたい」と思っていましたが、考えが変わりました。亡くなる0.1秒前までベストを尽くして、自分らしく生き抜きます!
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。近著に『教えて、修造先生! 心が軽くなる87のことば』。ライフワークは応援。公式インスタグラム/
@shuzo_dekiru撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。