診断や治療選択に欠かせない検査の重要性を理解する
小林 望先生(こばやし・のぞむ)国立がん研究センター 中央病院 検診センター センター長。三重大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院内視鏡部、栃木県立がんセンター画像診断部、消化器内科科長・内視鏡センター長を経て、2021年より現職。国立がん研究センターがん対策研究所検診開発研究部部長を兼務。がんが疑われる経緯は主に3つあり、(1)がん検診・健康診断・人間ドックを受けたとき、(2)ほかの疾患の経過観察で必要な検査を受けたとき、(3)その他(自覚症状が出て受診したときなど)です。
国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録全国集計」によると、2021年にがんが発見された経緯として最も多かったのはその他(47.8パーセント)でした。次いでほかの疾患の経過観察(36.4パーセント)での発見が多く、がん検診・健康診断・人間ドックで見つかった割合は全体の14.9パーセントでした。
発見の経緯がいずれの場合でも、がんの疑いがあるときは医師の診察とともにさまざまな精密検査が行われます。
「がんの疑いがあるといわれたら一刻でも早く診断をつけてもらって治療を始めたいというのが多くの患者さんに見られる心情です。焦る気持ちはよくわかりますが、精密検査はがんの正しい診断や適切な治療選択のために欠かせない重要なプロセスで、検査と診断には約1~4週間かかります。精密検査の目的や方法を知っておくと、いざというときに診断結果が出るまで落ち着いて待つことができますし、それらの知識は担当医の説明を理解する際の助けにもなるでしょう」とがんの検査に詳しい小林望先生は精密検査の知識を持っておくことの大切さを語ります。
より正確な診断を求めてリスクがあっても検査を実施
がんが疑われた経緯や疑いのあるがんの種類や状態によって実施される検査の種類や順番は異なりますが、精密検査の目的は2つです。
1つはがんの存在を確認し診断を確定すること、もう1つはがんの広がりなどを調べ、病期を決めることです。
「精密検査ではより正確に診断することが重要になってくるので、多少のリスクや身体的負担があっても必要な検査は行わざるを得ません。精密検査の種類には検診の検査と同じものもありますが、精度よりも安全性や身体的負担が少ないことを優先する検診の検査とは目的が異なることを理解していただくことも必要です」と小林先生はいいます。
落ち着いて検査を受けるために、その目的や内容を知っておく
(1)検査の目的
がんの診断を確定し、病期(がんの進行度)を決める
→多少のリスクや身体的負担があっても必要な検査を行います
(2)検査の内容
画像検査や病理検査など複数の精密検査を実施
→診断を確定する検査と治療方針を決める検査を行います
→治療を受けられる状態かどうかを調べるために心臓、呼吸、肝臓、腎臓の機能などの全身状態も検査します
(3)検査・診断に要する時間
検査と診断にかかる時間は約1~4週間
→適切な治療を選ぶために必要な時間。落ち着いて待ちましょう
→診断が確定し治療の見通しがわかるまで仕事の調整などは控えましょう
次回は、がん検診・健康診断・人間ドックでがんの疑いがあるといわれた場合を中心に患者数の多い5大がんを例にとりながら精密検査の過程や内容、検査を受ける際のポイントについて具体的に解説していきます。
なお、症状が出て受診する場合の精密検査の進め方についてもご紹介予定です。
取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。