365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
一覧はこちら>> アジサイ‘アナベル’
小さな花が集まり、ボール状の花房になります。大きなものでは直径20cmほどにも。ボリューム感があっても軽やかなのが‘アナベル’の魅力。■属科・タイプ:アジサイ科の落葉低木
■花期:6月〜7月
導入から25年ほどで大人気となった理由は?
自宅から駅まで歩いて約7分の間に、アジサイ‘アナベル’に何回出会えるか数えてみたら、7軒のお宅で植えられていました。平均すると約1分ごとに出会えるわけで、‘アナベル’の人気ぶりをあらためて実感しました。
アジサイ‘アナベル’は、ヨーロッパで改良されたアジサイをもとに、アメリカのシカゴにある種苗会社が育種した品種で、アメリカアジサイ、アメリカノリノキとも呼ばれます。日本で普及し始めたのは25年ほど前からですから、花木としては珍しいくらい短期間で大人気になったといえます。
緑色の花が咲き進むにつれ淡くなっていきます。ごく淡い緑色の花房もとても素敵。緑色の蕾から花が開くと、初めのうちは蕾同様の色なのですが、咲き進むにつれ徐々に淡くなり、やがて少しクリーム色がかった白花へと変わります。緑だけのフレッシュ感ある景色、緑と白が入り混じるすがすがしい景色、そして花房がふんわりと大きくなって株全体が白くなったときの清楚でエレガントな景色。
‘アナベル’は花色が変化する過程それぞれがとても美しく、約2か月の間、それを楽しめるというのは大きな魅力だと思います。ちなみに白くなった花は再び緑色へと変わっていきます。
じつは、‘アナベル’は花後の姿も魅力的で、花房を摘み取らずに残しておくと、徐々に茶色くなり、秋には花房の姿そのままで枯れ色へと変化します。日差しが当たると金色に輝いているようにも見える枯れ姿はなかなかロマンチックで、観光ガーデンではあえて花房を残しているところも多くあります。
もう一つ、‘アナベル’には管理の手間がかからないという大きな特徴があります。一般的なアジサイは花後と落葉期の2回剪定が必要といわれますが、‘アナベル’の場合は、枯れ姿を楽しんだあと、地際から10cmほど残してばっさりと刈り込めばOK。
生育が非常に旺盛なため、そこまで刈っても春になるとぐんぐん伸びて花期を迎える頃にはこんもりとした株に育ちます。その話をガーデナーさんから聞いたときには「本当に?」と少し不安になりましたが、実際に刈り込む様子を見せてもらった株が、翌年の初夏に大きく育って花を咲かせているのを見て大いに納得しました。
翌年に咲く新芽を見分けながら剪定する必要もありません。花の美しさもさることながら、この手間のかからなさがあるから、‘アナベル’はあっという間に大人気の花木になったのだと思います。
栽培の難易度
日なた、または明るい日陰で、水はけのよい土壌に植えます。植えつけ時に元肥を施し、たっぷり水やりしたら、その後の水やりは雨まかせでかまいません。花房全体の花が終わったら、摘み取っても、また残して秋まで枯れ姿を楽しんでもかまいません。新しく伸びてきた枝に花芽がつくため、剪定は花後〜落葉期までどこで行ってもかまいません。いちばん手軽なのは、落葉期にばっさりと刈り込む剪定です。翌年以降は毎年1月〜2月に緩効性肥料を株元に施します。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。