365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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うっとうしい梅雨の時期でも、アジサイの鮮やかな青紫を目にすると、心が透くような気分になります。アジサイといえばこの青紫。それは日本人ならではの常識のようです。■属科・タイプ:アジサイ科の落葉低木
■花期:6月〜9月上旬
アジサイがもともと持っている色素は青ではなくピンク!?
花木を扱っている苗木屋さんからとても興味深い話を聞きました。世界中でいちばん売れているシュラブはアジサイの仲間なのだそうです。シュラブとは低木、または灌木のことで、庭づくりでは欠かせない存在。
日本でもツツジやウツギの仲間、アベリア、ユキヤナギ、コデマリなど数え切れないほど多くのシュラブが利用されています。
いずれも美しい花やカラーリーフで庭に彩りをもたらしてくれますが、その中でアジサイがいちばん売れる理由はどこにあるのでしょう。
苗木屋さんによると、アジサイは庭木に望まれる条件の多くを満たしているのだそうです。
まず、大きな花房が見応えのある景色を生み出すこと。花期が長いこと。そして、剪定などの管理が比較的容易にできること。それにより、邪魔になるほど大きくならず、欲しいサイズをキープできること。そして、四季咲きの品種もあること。
そう列挙され、あまりに身近にありすぎて見落としていたアジサイの仲間の魅力をあらためて認識しました。カシワバアジサイやノリウツギなどもアジサイの仲間ですが、今回はちょうど花期を迎えるアジサイそのものをご紹介します。
アジサイには珍しい赤い花を咲かせることから大人気のヤマアジサイの園芸品種‘紅’。ヤマアジサイは関東南部から九州にかけて自生するアジサイで、花房は小さいながら楚々とした風情が感じられます。梅雨どきの庭でしっとりと咲く青紫色のアジサイを見かけるたびに美しいと感じる私は、日本に生まれて育った日本人なのだなぁと思います。ヨーロッパではアジサイといえばピンクのイメージで、それは皆さまもよくご存じの通り、酸性土壌かアルカリ性土壌かの違いによるものです。では、もともとアジサイの花色のもとになっている色素、アントシアニンは何色なのかというとピンクなのだそうで、中性土壌ではアジサイはピンクの花を咲かせます。
日本のように雨が多い環境では、土壌をアルカリ性にするカルシウムなどのミネラルが流出し、アルミニウムイオンが水に溶け出しやすくなります。それを吸い上げると萼にあるピンクの色素が青に変わるため、日本では青紫系のアジサイが多く咲くというわけです。
子供の頃、母がよく庭のアジサイの周囲に卵の殻を差し込んでいたのですが、卵の殻には炭酸カルシウムの弱アルカリ成分が含まれていて、それによりアジサイの花色がピンクに変わるそうです。母はピンクのアジサイを咲かせたかったのか!?あんなに美しい青紫の花を咲かせてくれていたのに……。
なお、最近では土壌の性質にかかわらず、青花、ピンク花が咲くように品種改良されたアジサイも出回っています。
栽培の難易度
日なたでも明るい日陰でも育ちます。水はけのよい土壌を選び、元肥を施してから植えつけます。植えつけ時にたっぷり水やりすれば、その後は雨まかせでかまいません。花房のほとんどが咲き終わったら、花茎の根元から摘み取ります。剪定は花後と落葉後に行います。花後の剪定では、新しく伸びた枝を切り詰めます。10月には花芽が分化するので、花後できるだけすぐに行います。落葉期の剪定は樹形を整え、株が大きくなりすぎないようにするのが目的です。今年花がついた枝は翌年はつかないので、それを切り詰め、同時に枯れ枝や古くなった枝を取り除きます。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。