天野惠子先生のすこやか女性外来 第13回(02)国内外の研究で認知症発症のリスク要因がいくつか明らかになり、話題となっています。それらの結果が示すのは、“認知症は生活習慣病である”ということ。すなわち、「これさえ行えば予防できる」という万能の予防法は、ないのです。天野先生がすすめる5つの認知症予防策を参考に、自分に合った方法を実行しましょう。
前回の記事はこちら>> 認知症は“生活習慣病”です。予防のために今、できること
天野惠子先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。認知症の要因12が明らかに! 中年期から気をつけたい「難聴、頭部外傷、高血圧」
2020年、英医学雑誌『Lancet(ランセット)』は認知症の発症要因12項目を明らかにし、生活習慣の改善で認知症の発症リスクが4割下がることを発表しました。若年期、中年期、高齢期の各年代ごとに気をつけるべき項目を明示しています(下図)。
6割は不明だが、4割は修正可能
●認知症発症のリスク要因Lancet.2020 Aug 8:396(10248):413-446をもとに作成更年期世代で特に影響が大きいのは、聴力の低下、頭のケガ、高血圧などの生活習慣病。難聴対策で8パーセント、血圧のコントロールで2パーセント、発症リスクを抑えられるとの目安を示しています。
日常生活の活動低下が社会活動への参加を減らし、認知機能に影響を及ぼす
家に閉じこもりがちの社会的孤立や難聴は、認知症のリスクを高める。IROOP(アイループ。認知症発症予防を目的とするインターネット健常者登録システム)に登録された日本人高齢者の大規模データから、認知機能の低下に影響する要因が発表されました。
それによると半年後に認知機能が低下した人は、その間、日常生活における活動や社会活動への参加が減り、気分の落ち込みや意欲の低下が生じていたこと、また糖尿病やがんなどの病気、難聴、頭部のケガ、慢性的な痛みがあったと報告しています。
認知機能低下に関連する要因
・日常生活活動(風呂に入る、服を着る、スケジュールを立てるなど)の低下
・社会的活動への参加減少
・気分の落ち込み
・意欲の低下
・糖尿病、がん
・聴力損失、外傷性脳損傷
・慢性的な痛み
「認知症予防のための健常者レジストリIROOP 研究事業 最終報告書」(2021年3月 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)をもとに作成
脳が萎縮していても症状が出にくい「認知の予備力」とは何か
101歳で亡くなる直前まで子どもたちと交流し活動的に働いていたアメリカの修道女を死後解剖したところ、脳の萎縮が進んだアルツハイマー型認知症だったことがわかりました。
生前の知的活動が脳の神経回路を豊富にし、死滅した神経細胞の機能を補ったと推測されています。
このように損なわれた脳の機能を埋め合わせる働きを「認知の予備力」といい、長年の職業や社会的活動などによって培われた知的機能の高さによって左右されると考えられています。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
https://joseigairai.online/YouTube
「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>> 撮影/本誌・伏見早織 イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。