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パリで生きる歌人・水原紫苑さんの滞在記『巴里うたものがたり』

2023.06.13

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〔今月の本/短歌とエッセイ〕
『巴里(パリ)うたものがたり』水原紫苑 著

水原紫苑さん

水原紫苑(みずはら・しおん)
歌人。1959年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。春日井 建に師事。第一歌集『びあんか』(雁書館)で現代歌人協会賞、『如何なる花束にも無き花を』(本阿弥書店)で毎日芸術賞など、著作、受賞多数。エッセイや小説も発表し、毎日新聞歌壇選者も務める。近著は『快樂(けらく)』(短歌研究社)。

パリを旅するのではなく、パリで生きる。歌人・水原紫苑さんの滞在記


歌人の水原紫苑さんがパリに滞在したのは、2022年8月から11月初めまでの約2か月半。学生時代に短期留学で初めてパリを訪れてから41年ぶり。その後2回短い旅をしたが、それ以来を数えても、約30年ぶりだったという。


「最初の短期留学後はまだ学生でしたし、パリに留学したい気持ちでいっぱいでしたが、実力や環境が整わず、だんだん諦めて心の奥にしまいこんでいたような気がします」

そんな水原さんがパリ行きを決意したきっかけは、生活の変化だという。

「両親と恋人、そして最後の家族だった愛犬を見送って、やっとパリに行こうと思いました。2021年はパンデミックのために諦めたのですが、2022年は敬愛する俳優のジェラール・フィリップ生誕100年だったため、絶対に行かなければと思ったのです」

本書は、出発前から帰国後までの日記と短歌で構成されている。たとえば、出発前日の8月14日。

“もう出かけたくてたまらない。旅など、いつ以来だろう。(中略)自分が行き詰まっていたのかもしれない。どうなろうとも、フランスで新しい自分を切り拓く旅である。

火の鳥のわれとなるべくかんかんと
熱波にくるしむふらんすを抱く”

カルチェ・ラタンのホテルに滞在し、ソルボンヌ大学の語学文明講座に通いながら、日本で受けていた講座もオンラインで受講する日々を送る。旅行としては長期、暮らしとしては短期の滞在は、日本でしていたことを旅先でも続けることで、非日常と日常の両方を生きることになるようだ。

SNSで知り合い、オンラインで交流を続けてきたジェラール・フィリップのファンと食事会をしたり、生誕100年記念の展覧会を観に行ったりしたことも。そして、徐々に“パリに住みたい”という気持ちが高まり、物件を探し始めた。

「私はもう家族もいないし、定職もないので、いっそ旅行ではなく住みたいと思いました。アパートを買えるかどうかはわかりませんが、できればパリで生活したいですね。ただ、パリの冬は寒いですし、病院への通院の問題もあるので、ときどき日本に帰って来るという生活ができればいいのですが」

本書の出版後、帰国から半年も経たずに、次のパリ滞在を実行する。

「パリへの旅と旅の間なので、日本の自宅にいても、旅の続きのような感じです。そうなると、以前は寂しかった日本の生活もとても楽しく、いとしいものに思われます」

“灼けつくような寂しさ”を感じていたという日々が、動くことによって劇的に変わった。方向音痴(失礼!)な水原さんにハラハラしながらも、人生の大きなヒントが得られる一冊だ。

巴里うたものがたり

写真/水原紫苑 ブックデザイン/髙林昭太

『巴里うたものがたり』
水原紫苑 著/春陽堂書店


2022年夏から秋にかけてのパリ滞在記。ほぼ毎日同じカフェで夕食を楽しみ、大学の講座に通い、トゥールやアヴィニョン、リヨンへの小旅行も。みずみずしい旅の喜びを、100首を超える短歌を添えて綴る。

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構成・文/安藤菜穂子

『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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