フィギュアスケート愛(eye)選
平昌五輪、涙腺崩壊のプログラム その5
AFP/アフロアイスダンス テッサ・バーチュー&スコット・モイヤー組(カナダ)のFS
「ムーランルージュ」122.40点
今大会のフィギュスケートはどのジャンルも記憶に残る激戦でしたが、なかでもアイスダンスはハイレベルな演技が続き、息つく暇もない状況でした。
アメリカ代表のマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組、マディソン・ハベル&ザカリー・ダナヒュー組、イタリアのアンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ組(通称カペラノ)、カナダのケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ組といった、人気と実力を兼ね備えたペアばかり。
なかでも優勝候補に挙げられていたのが、テッサ・バーチュー&スコット・モイヤー組(通称テサモエ)と、フランス代表のガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組(通称パパシゼ)です。
長年、アイスダンスの頂点に君臨し続けるテサモエ。2010年のバンクーバーオリンピックで金メダルを手にした2人はソチ五輪でメリル・デイヴィス&チャーリー・ホワイト組(アメリカ)に次いで2位になったあと、2シーズンもの間、競技から離れ、ファンをやきもきさせていました。
そして、満を持して昨シーズンから復帰。NHK杯でも30歳と28歳のベテランらしく、高いダンス能力と表現力で観客を魅了してくれましたね。
一方のパパシゼは22歳と23歳。初めてのオリンピック出場ですが、12月のGPファイナルではテサモエを抑えて優勝。
五輪直前からすでに静かに熱く火花を散らしていました。パパシゼの魅力は短編映画を見せてくれているようなストーリー性の濃い演技にあると思います。
イタリアのカペラノもそうですが、登場人物のセリフや背景まで浮かんできそうな演技は、やはりアイスダンスの醍醐味の1つですよね。
SPの演技中、ガブリエラの衣装のホックが外れて、あわや肌が露出してしまうという気の毒なハプニングがありましたが、SPではテサモエが83.67点、パパシゼが81.93点という僅差の戦いになりました。
わずかなリードで迎えたFS、テサモエがくじで引き当てた滑走順は最終滑走。栄光の勝利へと向かって、まるで道が用意されているかのようでした。
大歓声のなか、最終演技者として登場した2人からは気迫とオーラがみなぎっていて、その時点ですでに半分優勝をもぎ取った感あり。フリーだけで見るとパパシゼが123.35点、テサモエが122.40点でしたが、SPのリードを生かし、わずか0.79点差でテサモエが優勝。
フィギュアスケートの神様はベテランの2人に微笑みかけました。パトリック・チャン選手同様、3月に行われる世界選手権には出場しない見込みのテサモエですが、五輪という大舞台でこれぞアイスダンス!という演技を見せてもらうことができて、本当に感涙でした。
新たな伝説が誕生した瞬間に立ち会えた幸せ。
同時代に素晴らしいスケーター達が数多く存在してくれていることに心から感謝です。
本当に眼福の時間だった平昌五輪でした。
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。