写真/kusano shinji/Nature Production/amanaimagesしっぽり
選・文=山口仲美(日本語学者)梅雨の季節がやってきました。湿度が高く、物が「しっぽり」「しっとり」する季節。
「しっぽり」は「しっとり」に似ていますが、水分を含む度合いが高い。「花も…雨の塊(かたまり)を、しっぽりと宿していた」(漱石)のように使いますから。
さらに、「しっぽり」には、「しっとり」にはない特別な意味があります。男女が愛情細やかに仲睦まじくしている様子も意味します。「二人でしっぽり」とか「しっぽりデート」などと。
江戸時代には、この「しっぽり」の語が大流行。なにしろ、遊廓のある時代。男女の情愛細やかな遊びを「しっぽり遊び」、情趣あふれる遊客を「しっぽり客」、男女で仲睦まじく飲む酒は「しっぽり酒」。そして、しめやかに男女が情を交わすときは「しっぽる」です。
「しっぽり」は、江戸情緒を写し出す言葉の一つ。だから、なかなか味があるのです。
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