訳)藤の花が波うつように盛んになりましたね。奈良の都を、あなたは恋しく思われませんか
藤はまた、花の美しさを愛でるだけではありませんでした。有用植物として、日常的にそばにあったのです。
山で木を切りそれを引っ張ってくるのにも藤のつるが使われ、柱を立てるときにも藤のつるで引っ張り起こし、そして柱と梁を結ぶのも藤のつるです。
そして古代の人たちが着ていた、装束も藤衣と言われて藤のつるが織られていました。一般庶民はみな藤衣を着ていただろうといわれています。藤がなければ生活ができないほど、藤は身近で大事な存在でした。
選・文=加賀美幸子(アナウンサー)この連載、新年は『万葉集』で始まりました。区切りの6月号も『万葉集』です。4500首以上詠まれた歌のうち、植物に関する歌はおよそ1500首。当時の人々はそれぞれの花へ思いを寄せました。
イラスト/髙安恭ノ介藤は美しくて香りもあり、そして何よりも生命力が強い花です。木に絡まっている藤は、自立がまったくできない木なのです。隣の木に絡まって助けを借り、自分自身は一年につるを5メートルも10メートルも伸ばして、木の上を目指します。
そしてその木の上で太陽の光を浴びて見事に麗しい花を咲かせる、生命力あふれる花です。命が芽吹き、実りへの期待が高まる季節に藤の花は咲きます。万葉の人々が心を躍らせた、あこがれの花なのです。
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