天空の森 ふるさとに築く「夢の王国」 唯一無二のおもてなしで世界中から訪れるゲストの心をわしづかみにしてきた「天空の森」オーナー、田島健夫さん。日本を代表するデザイナー、コシノジュンコさんも田島マジックに魅了された一人です。大自然を眺めながら、心づくしのご馳走と会話を堪能されたコシノさんは、「新しいアイディアが湧いてきます」とにっこり。それこそが、一番のおもてなしといえるのかもしれません。
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最高の思い出ができる舞台をつくるのが僕の仕事
田島さんがランチの舞台に選んだのは、ヴィラ「花散る里」のテラス。霧島連峰のパノラマを背景に、まずは再会を祝してシャンパンで乾杯。「神様がつくられた自然は一つとして同じものがなく、すべて生きている。見飽きることがありません」とコシノさん。「この世はすべて人間関係でできている。来てくださるお客さまを全力でもてなしたい」──田島健夫
コシノジュンコ先生とは、初めてお会いした瞬間から気が合いました。先生も「話が弾んで止まらなかったわね」とおっしゃっていましたから、間違いないです。凡人の僕と違い、先生は紛れもない天才ですが、とんがっている、ぶれない、地方の文化に光を当てる活動をしている、といった点は共通しています。
先日、鹿児島市内のホテルで先生が衣装を手がけられた舞踊と音楽の素晴らしい公演を拝見し、その翌日、「天空の森」へお招きしました。
「美しき神々の舞 PASSION」は、バレエと舞踊、和太鼓、歌、語りを融合した舞台で、コシノさんが衣装デザインを担当。公演後の記念撮影に田島さんも特別参加。芸術監督、演出振り付けも手がけたプリンシパルダンサーの西島数博さん。©ぱぴ衣装が浅野瑞穂さんの舞を引き立て、幻想的な美しさ。©ぱぴ世界中の美食をご存じに違いない先生のためにご用意したのは、うちの牧場自慢の鶏と自家菜園でとれる新鮮なクレソンの鍋。
鶏とクレソンの鍋。3時間以上煮てほろほろになった手羽元などが入っている。大切なお客さまのため、手をかけて育てた鶏を捌いてお出しするのは、鹿児島伝統のおもてなしです。鶏の刺し身、レバー、焼き鳥も作って、鶏をまるごと味わっていただきました。
しゃぶしゃぶ用のクレソンと鶏のむね、もも、ささみ。手前は鶏の刺し身で、奥はコシノさんが感激した鶏レバーを塩とごま油であえた一品。いずれも新鮮だからこそ味わえる。敷地内に自生するタケノコやタラノメの天ぷら、伊佐米のおにぎりなども供された。旅の醍醐味とはその土地の文化に触れることですから、この季節、ここ鹿児島だからこそ味わえる食材で作るご馳走が “天空食”。まだまだ発展途上ですけどね。幸い、ジュンコ先生はパクパクと実においしそうに召し上がってくださいました。僕が尊敬するかたは皆さん、食べっぷりがよくて、見ていて気持ちがいいほどです。
僕のおもてなしの核にあるのは、気配りでなく、 “心配り”。僕はどうも、気配りという言葉には「こんなに気を配っていますよ」というおごりのようなものを感じるんですね。気配りが視線なら、心配りはまなざし。お母さんが赤ちゃんを見るときのような温かいまなざしを持って、全力でもてなすのが、僕の流儀です。
こうした考えの原点にあるのは、全日空の元社長、岡崎嘉平太さんからいただいた「この世はすべて人間関係でできている。人と人との繫がりを大切にしなさい」という言葉。数十年経った今も、僕の心の中にあります。
ティータイムは「大宇宙(おおぞら)の入り口」と名づけられた小高い丘にて。鹿児島名産の紅茶「紅ふうき」をカップに注いでいるのは、マレーシア人のヤップさん。「天空の森」では国籍を問わず、志の高い若者が数多く活躍している。彩り華やかな自家製スイーツ。フィナンシェに使われている霧島名産の茶葉のほか、晩白柚(ばんぺいゆ)やいちごなどのフルーツも大半が地元産だ。ありがたいことに、真心を込めたおもてなしを続けていると、自分に返ってくるんですね。「忘れの里 雅叙苑」の経営が厳しかった頃、お客さまの「来年も来るから」というひと言にどれだけ力をいただいたことか。
三宅一生さん、石原慎太郎さん、フランク ミュラーさん、マーガレット ハウエルさんらがかけてくださった言葉は、僕の人生の句読点において指針となり、支えとなってきました。
お二人がランチを楽しんだヴィラ「花散る里」の早朝の様子。「刻々と移ろう神秘的な空を見ていると、やはり鹿児島は天孫降臨の地なのだと確信します。この地で日本の神々をテーマにした公演をしていただけて嬉しいです」と田島さん。ヴィラの露天風呂。今回、ジュンコ先生とゆっくりお話しする機会を得て、ファッションや芸術、地方創生などについて、たくさんのことを教えていただきました。いちばん嬉しかったのは、夢について語り合えたことで、「夢は成長するもの」という意見で一致。先生も僕も、まだまだ叶えたい夢がいっぱいある者同士。いつか夢が交差する日が来たら面白いですね。
「天空の森」オーナー 田島健夫(たじま・たてお)
産みたての卵をゲストへのお土産にすることも。1945年、鹿児島県・妙見温泉の湯治旅館「田島本館」の次男として生まれる。東洋大学卒業後、銀行員を経て1970年に茅葺きの温泉宿「忘れの里 雅叙苑」を、2004年に約60万平方メートルのリゾート「天空の森」を開業。年齢や国籍、ジャンルを超えて、幅広い人脈を持つ。
撮影/本誌・西山 航 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。