石川・富山・福井「北陸」三都物語 第3回(全23回) 2024年に新幹線でつながる北陸3県は、その地の文化を発信する新たなスポットが次々と誕生し、今、最も注目を集めるエリアです。アート、伝統工芸、日本酒や美食処など、魅力溢れる夏の北陸をご案内します。
前回の記事はこちら>> 一本杉 川嶋(石川県七尾市)
奥は同じ通り沿いにある昆布屋「しら井」の利尻一等昆布のだしを使った椀物。椀種はアコウのしんじょ、矢羽に見立てたうどをのせて。手前は塚本快示 作の青白磁に盛られた鰆の藁焼き。脂ののった臍(へそ)の部位を梅大根、特製ポン酢、造り醬油でさっぱりといただく。目の前で仕上げる七尾のとれたて素材を味わう
北前船の寄港地として栄えた七尾には、当時の繁栄の面影を今に伝える一本杉通りがあります。2020年の夏、この通りに新たな風を吹かせる料理店が誕生しました。
ご主人の川嶋 亨さんは、今はなき京都の名店「桜田」の煮方として研鑽を積みました。地元の賑わいを取り戻すという覚悟のもと、祖父の家の近くでなじみ深いこの通りを自店を構える場所として選びました。
席に着くと、同じ通りに並ぶ老舗「高澤ろうそく店」の和ろうそくの灯りに迎え入れられ、コースがスタート。その後は、目の前で一番だしを引き、旬魚の藁焼きを披露するなど、ライブ感たっぷりに、ときにはお客さんの質問に答えながら楽しませてくれます。
締めのご飯は自らが田植えした無農薬の米を使い、定番の3種のおかずに加え、日替わりで季節の魚を使ったユッケや漬けを合わせた、贅沢なおかずも即興で出されます。
川嶋さんの七尾に対する敬意が感じられる、繊細で滋味深い味わいは、一際心に残るでしょう。全国から集まるお客さんの中には、帰り際に次の予約を入れるかたが多いため、早めに予約するのがおすすめです。
川嶋さん自らが田植えした稲の藁を使った「藁焼き」。旬の魚に燻製にも似た香りがつく。能登島の「向田の火祭り」をイメージしており、厨房で上がる炎は大迫力。18年以上作り続けているというごま豆腐。3時間かけて白ごまをすることで、芳醇で甘い香りが立つ。コースの最初に出される、炭火で塩焼きされた稚鮎と香り高い野芹のおかゆ。有形文化財にも登録されている建物は、旧万年筆店。ペン先形の窓が象徴的。 撮影/本誌・坂本正行 取材・文/柳 ゆう 協力/石川県観光連盟 料理内容などは諸般の事情により変更になることがあります。掲載の料金には別途サービス料等がかかる場合があります。
『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。