エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2023年7月号に掲載された第24回、勅使河原 茜さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.24 おじいちゃまと和菓子
文・勅使河原 茜
中学生の頃まで、祖父母、両親、姉、私、妹の7人で暮らしていました。映画監督の父、俳優の母はいつも忙しく不在がちだったので、私たち三人姉妹は学校から帰ると祖父母の部屋でよく過ごしていました。夕方はテレビで時代劇を見ながらおやつを食べる時間。香ばしいおせんべいと季節の和菓子が定番でした。
いけばな草月流の創始者だった祖父は、普段は仕事場に籠って制作に没頭するか、指導や展覧会のために国内外を飛び回っていることが多かったのですが、自宅ではソファにごろりと横になって、テレビを見たり、たわいないおしゃべりをしたりして私たちの相手をしてくれました。
家には全国の門下の方々からの頂き物や、各地から取り寄せた色々なお菓子がありましたが、何と言っても、私たち姉妹の一番のお気に入りは四季折々の上生菓子。上等な菓子皿に盛り、この時ばかりは祖父母と一緒にちょっとかしこまっていただきました。
上生菓子のおいしさや美しさもさることながら、私たち三人のほんとうのお楽しみはおいしくいただいたその後でした。祖父は、祖母がちょっと目を離したすきに、いくつか残った練りきりなどを、黒文字や取り箸を器用に使って、飾りを取り替え、形を変え、組み合わせたりして、みるみるうちに見たこともないお菓子に作り変えてしまうのです。そして、いた
ずらっぽく笑いながら「どうだい、新作だよ」と、こっそり菓子皿に載せてくれました。私たちは、祖母に見つかって叱られないようにと、笑いをこらえながら大急ぎで「新作」を口に運んだものです。丹精込めて作ってくださった職人さんにはほんとうに申し訳ないのですが、なぜか祖父の「新作」の方がほんのちょっとだけおいしかったような気がします。
門下の方々にとっては厳しく怖い家元だった祖父も、孫の私たちには、ひょうきんでどこまでも優しいおじいちゃまでした。今も和菓子をいただくと心底ホッとするのは、祖父母と過ごした穏やかで優しい時間を思い出すからなのでしょう。
勅使河原 茜いけばな草月流第4代家元。美術家、ミュージシャン、ダンサーなど他分野のアーティストとのコラボレーションに積極的に取り組むほか、いけばなを通じて子どもの感性と自主性を育む「茜ジュニアクラス」を主宰する。また、音や光などの演出を取り入れて舞台空間に花をいけるパフォーマンス「いけばなLIVE」を国内外各地で上演するなど、いけばなの新しい可能性を追求する。
表示価格はすべて税込です。
『家庭画報』2023年07月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。