食事会や観劇などの気軽なお出かけで、きものの楽しみを豊かに広げてくれるのが帯留めやブローチなどの小物づかいです。特に帯留めは、コーディネートにスパイスをきかせる重要な役どころ。
今回ご紹介する帯留めは、直線で構成されたモダンなデザインを蒔絵の技で形にしています。大胆な意匠がいつものコーディネートにきりりとした清涼な印象を与えてくれます。
榊 せい子さんがお母さまから受け継いで染め替えた紬に、古典文様の名古屋帯を合わせて。白蝶貝のつやと金の光沢がよく映える。「モダンな雰囲気でありながら行きすぎずにきものと調和するのは、蒔絵の金が放つ光沢が柔らかだからでしょうか」と、帯留めを手ににこやかに話すのは榊 せい子さん。お母さまのきものを受け継ぎ、上品かつおしゃれに着こなす榊さんには、家庭画報本誌オリジナルの帯留め製作のアドバイザーとなっていただきました。
「帯留めは“遊び”のシーンで楽しむものですから、センスのよいものがいいですね。色が賑やかなものより、淡い色合いで質感が優しいときものになじむでしょう」。
榊さんのお話をもとに帯留めを作ってくださったのは、山中漆器の伝統工芸士である大下香征さん。モロッコタイルに着想を得て、文様が永遠に続いていくさまに思いを馳せて考案しました。
淡い色合いでありながらも素材の質感が存在感を持つため、濃い色のきものだけでなく淡い色のきものにも沈むことなくよく映えます。洋装の首もとに輝く一粒のジュエリーのように、きもの姿を凜と際立たせてくれる帯留めです。
スエードの細紐を通せばチョーカーに、安全ピンを通せばストールを留めるブローチになど、自由に楽しめる。一緒に考えてくださったかた
榊 せい子(さかき・せいこ)さん
書家の榊 莫山さんと、茶道を教える母、美代子さんの長女として三重県伊賀市に生まれる。中学生の頃から茶道を学び、現在は裏千家正教授として、豊かな自然に囲まれた伊賀の自宅で茶道を教える。著書に『季節を愉しむ きものごよみ』(小社刊)など。写真/森山雅智