写真/アフロてふてふ
選・文=山口仲美(日本語学者)さまざまな蝶が軽やかに飛び交う季節。蝶の飛ぶ様子は「ひらひら」。でも、もっと目を見張るようなオノマトペはないかしら? 探し求めて行くと、見つかりました。
「いっぱいに群がってとびめぐる てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ」。萩原朔太郎の詩「恐ろしく憂鬱なる」の一節。
「てふ てふ…」は、たくさんの蝶が群がって飛ぶ様子とその微かな音を写したオノマトペ。厚ぼったい羽を打ち震わせる空気の振動音まで聞こえてきそう。生きものの匂いのする鱗粉まで飛んできそう。
どこから、こんなユニークな言葉を思いついたのでしょうか。「蝶」は、歴史的仮名遣いで書くと「てふ」。彼は、その「てふ」に、詩人の感性から蝶の飛ぶ様子と羽音を感じたのです。物の名前にすぎない「てふ」が、独創性あふれるオノマトペに生まれ変わった瞬間です。
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