音楽による最後の日記
Photo by zakkubalan ©2022 Kab Inc.肉体は消えても、作品はもちろん、存在感や影響はありありと残る。2023年3月に坂本龍一が世を去り、音楽ファンや、彼に影響を受けた多くのミュージシャンが、強い喪失感を味わった。
高橋幸宏、細野晴臣と結成したYMOのサウンドは、当時の音楽シーンに衝撃を与えた。ソロでも「戦場のメリークリスマス」をはじめ世界で愛聴される作品を発表。環境や社会問題についても積極的にかかわり、アーティストが政治的意見を発信するのは御法度でないと、自らの行動で日本の後進に伝えた。音楽だけでなく、生き方で多くのメッセージを発する人だった。
71歳の誕生日にリリースされた『12』は、結果的に生前最後のアルバムとなった。坂本が2021年に直腸がんの手術を受け、回復してきた頃、“ふとシンセサイザーに触れてみた”のをきっかけに、この音楽による日記作りが始まったという。
日付がタイトルとなった楽曲には、呼吸音とともに、その日の彼の緊張、不安と悟りの間で移りゆく心のムードが収められているかのようだ。複雑に輝き流れてゆくピアノの音に、坂本の過ごした日々の営みが刻み込まれている。
坂本龍一(さかもと・りゅういち)1952年東京都生まれ。1978年「千のナイフ」でソロデビュー、同年YMOを結成。「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」といった映画音楽でアカデミー賞やグラミー賞を受賞し、世界的な評価を得た。2014年に中咽頭がんを公表するも、その後復帰を果たして精力的な活動を続けた。2023年3月28日、71歳で惜しまれつつ他界。 編集部おすすめ
[CD]
坂本龍一『12』
RZCM-77657 3410円2023年1月にリリースされ、生前最後となった、6年ぶりのオリジナルアルバム。闘病生活の中、日記を書くように制作した音楽のスケッチの中から12曲を選び、1枚のアルバムにまとめた。アートワークは坂本と親交のある美術家、李禹煥(リ・ウファン)。
[楽譜]
Ryuichi Sakamoto Official score store
“そろそろ曲をきちんと残さなくてはいけないと考える年頃になった”ことから、2021年12月にオープンされた、坂本龍一作品の楽譜販売サイト。坂本が納得のいく形に仕上げた楽譜を、PDFのデジタルデータとプリント・オン・デマンドの2種類で入手することが可能。プリント版は、長嶋りかこデザインのスコアケースに入れて届けられる。
URL:
https://score-jp.sitesakamoto.com/ 表示価格はすべて税込みです。
構成・文/高坂はる香
『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。