新「軽井沢」で楽しむ夏 第2回(全25回) 古くから、文化人、芸術家、財界・学会などの知識人に愛され続けたこの地では、住民の見識・美意識が高く、“本物”しか残らない文化があるといわれます。本物の軽井沢文化を担う住み手の暮らしを追いながら、名門避暑地たる所以を探りました。
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一枚の絵との運命的な出会いから美術館を開いたコレクター、荒れ地を切り開き森の音楽堂を作った声楽家(7月19日公開予定)、テントサウナで自分流の“サ道”を愉しむサウナー(7月20日公開予定)。三者三様の「森の生活」をご紹介します。
軽井沢安東美術館
ご夫妻が“リビング”と位置づける軽井沢安東美術館の「サロン ル ダミエ」。来館者が展示室を探訪する前に、動画による作品解説を見る場所であり、プロはもとより若手の音楽家による定期演奏会が開かれる音楽空間でもある。©Fondation Foujita/ADAGP, Paris&JASPAR, Tokyo, 2023 E5253猫好き、アート好きが集う“わが家”へようこそ
安東泰志さん、恵さんご夫妻(藤田嗣治作品のコレクター)
企画協力/軽井沢安東美術館始まりは、この一枚から
『魅せられたる河』より ヴァンドーム広場この作品は、安東さんご夫妻が最初に購入した藤田嗣治の絵画だ。軽井沢での散歩の途中、偶然、ギャラリーで出会った作品で、藤田作品のかわいさに初めて触れ、癒やしを覚えた記念すべき一枚。この一点から約200点におよぶ藤田作品の蒐集が始まり、安東コレクションはかたち作られ、美術館の設立へとつながった。軽井沢での運命的な藤田作品との出会い
安東さんご夫妻と藤田作品との運命的な出会いは、2005年春のことでした。
信用していた人たちに裏切られて順調だった事業が継続できなくなり、心身に極度の不調をきたした安東さんは、軽井沢の別荘で静養していたのです。ある日、奥さまと軽井沢銀座を歩いていた時、ギャラリーの入り口に「藤田嗣治展」とあるのを見て、何とはなしに店に入ったそうです。
「ヴァンドーム広場」はギャラリーのいちばん奥にひっそり佇んでいました。目にしたその瞬間、描かれている風景にふっと惹きつけられたそうです。1988年から1996年まで銀行の駐在員としてロンドンにいた安東さんにとって、パリはよく仕事で行った場所。当時の安東さんは、24時間戦うまさに「会社人間」でしたが、やりがいを持って仕事に取り組み、前向きでした。その頃の思い出が甦ってきて、気がついたら「これ、ください」と口に出していたのです。
絵を持ち帰って改めてよく見ると、椅子の上でまどろむ小さな猫の毛並みにいたるまで、ディテールがきちっと描いてあることに気がつきました。「いい絵だな」と心から思ったそうです。
そして、気づくとこの絵が持つ不思議な吸引力のとりこになりました。遠近法で描かれた絵の中心にあるナポレオン記念柱。そこに向かって吸い込まれていく感じが、たまらなく心地いい。「藤田、いいね!」奥さまもそう思ったそうです。