合併症のリスクを減らすために主に取り組んでおきたいことは、(1)禁煙・禁酒、(2)歯科検診・治療、口腔ケア、(3)食事・栄養、(4)適度な運動の4つです。
「当院では、安全に全身麻酔をかけられるかどうかといった点から全身状態を麻酔科医が評価し、基準をクリアすると入院が許可されます。その際、喫煙者が禁煙していないと入院が延期されることもしばしばあります。喫煙が継続された状態で手術をすると合併症が増えるからです」。
太りすぎも術後合併症の増加だけでなく、手術の際に麻酔がかかりにくくて醒めにくい、脂肪で病巣が確認しにくい、出血量が増える、手術に時間がかかるなど手術そのものの質が落ちるため、よくないそうです。肥満者には食事や運動などの生活指導が行われ、減量に取り組んでもらうこともあるといいます。
【手術前の生活は普段どおりに】
●合併症のリスクを減らすために取り組んでおきたいこと
禁煙・禁酒
喫煙していると痰の量が増え、肺炎などの重大な合併症が起こりやすくなる。また、喫煙は治療効果を下げる原因になるとも考えられている。一方、手術や麻酔によって肝臓に負担がかかるため、手術前には禁酒して肝機能を高めておくことが大切だ。飲酒量が多い人は術後にせん妄を起こしやすいこともわかっている。
歯科検診・治療
口腔ケア
全身麻酔の場合は、麻酔中に歯が抜けることのないように歯科検診を受け、歯槽膿漏などでグラグラしている歯があればきちんと治療しておこう。また、手術後に誤嚥性肺炎などの感染症を起こさないように手術前から口腔ケア(歯磨き、うがい)を十分に行い、口の中の細菌が増えないよう清潔を保っておきたい。
食事・栄養
担当医から特別な指示がある場合を除き、普段どおりの食事をする。体調に合わせて食べられるものを食べるというスタンスでよいが、栄養状態が悪い場合は栄養剤を服用することもある。また、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病がある人は、病状をコントロールできるように医師から指示されている食事療法をしっかり守る。
適度な運動
手術後は筋力や筋肉量が減少するので、それに備えて筋力や体力を維持・増進しておく必要があり、できるだけ毎日(週5回以上)運動することがすすめられる。また、体を動かすことは気分転換にも役立つ。ウォーキングなどの有酸素運動とスクワットなどの筋力トレーニングを組み合わせ、継続することを心がけて取り組もう。
国立がん研究センター「がん情報サービス/手術(外科治療)もっと詳しく」などを参考に作成
さらに手術前からのリハビリテーションも大切です。なかでも「呼吸リハビリテーション」は、肺炎など手術後に起こりやすい合併症の予防に役立ちます。
「術後は一時的に痰を出すのが難しくなり、それが肺炎の原因になりやすいため、手術の1~2週間前から腹式呼吸や排痰法などのトレーニングに取り組みましょう」。
一方、手術や入院の費用は健康保険が適用されても医療機関の窓口での支払いが高額になるため、「高額療養費制度(医療機関の窓口で支払う医療費が1か月の自己負担限度額を超えた場合、その超えた額が支給される)」の対象になります。
しかし、支払い後に申請してから支給されるまでには数か月かかるため、入院前に加入している健康保険組合等で「限度額適用認定証」を交付してもらうことをおすすめします。支払いの際、健康保険証と合わせて医療機関に提示すると、窓口での支払いが自己負担限度額までになります。
そのほか生活面などでも気がかりなことがあれば担当医に遠慮なく相談しましょう。必要に応じて医療ソーシャルワーカーなどにつないでくれます。
【早期回復を目指してリハビリを】
■呼吸リハビリテーション
開腹・開胸手術を受けると痛みや麻酔の影響で呼吸が浅くなりやすく、咳をする力も半分程度に低下する。このような状態に備えて肺の機能を高めたり、肺の奥にある痰を排出する訓練をしておくことが大事で、手術前から腹式呼吸や排痰法などの呼吸リハビリテーションに取り組みたい。
国立がん研究センター「がん情報サービス/手術(外科治療)もっと詳しく」などを参考に作成
※次回へ続く。
取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。