エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2023年8月号に掲載された第25回、中山 忍さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.25 道まだ半ば
文・中山 忍
「ああ、夏が来たんだなあ」
店頭に、季節のめぐりを知らせる果実をまるっと使った和菓子が並び始めると、なんだかワクワクしちゃいます。
今なら大好きな「陸乃宝珠(りくのほうじゅ)」。甘く柔らかいお餅に包まれたパリっとした皮の食感、口の中に飛び出す果汁!その贅沢さに、「大人になって良かったなあ」とウットリする瞬間です。以前、果実を使ったお菓子は、その収穫の時期によって味が変化していくと伺いました。陸乃宝珠も、一口に夏のお菓子と言っても“初夏”と“盛夏”では甘さや酸味に違いがあって、その違いも楽しみのひとつなのだと知りました。
30代前半の頃に茶道を習い始めました。そのときから和菓子は「彩りと学び」を与えてくれるものとして、私の人生に、より欠かせないものとなりました。
思えば子供の頃から甘いものが好きで、なかでも定番の大福やどら焼き、あんこが大好きでした。お正月には干支が可愛らしく練り込まれた羊羹、春の桜餅、夏にはヒンヤリ喉ごしのよいあんこと小餅の「冷やしあんとろり」、秋にはきんとんなど、今ほど和菓子のバリエーションは知らなかったけれど、幼少期に培った「あんこ」への情熱が、茶道へと導いてくれたようにも思います。
もちろん女優の仕事に役立つのでは、ということも大きかったですし、時代劇などお着物を着る場面でも違和感なく動けるようになったのは、生徒としては決して出来の良くない私を指導してくださる先生方が、「忍さんね、“道”とつくものは、細く長く続けることが大切なのよ」と励まし、あたたかく見守ってきてくださったからだと、感謝の気持ちでいっぱいです。
道まだ半ば。
和菓子が伝統を大切に守りつつ、日々、進化しているように、私も一人の女性として、女優として、あんことともに精進してまいります。
中山 忍俳優。第17回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第38回ブルーリボン賞最優秀助演女優賞、第19回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。テレビドラマ出演に、「彼女たちの時代」「大奥〜華の乱〜」など。2時間ドラマに「万引きGメン・二階堂雪」「無用庵隠居修行」など。映画では「平成ガメラシリーズ 1・3」「大奥」「いのちの停車場」など、幅広く活躍する。