インドの出版社・タラブックスが手がけるハンドメイド絵本に、今、大人も子どもも夢中です。2023年5月に発売されたタラブックスの日本語版最新刊『しっぽばなし』(谷川俊太郎訳、世界文化社)の制作風景から、“世界で最も美しい”と称される絵本の魅力に迫ります。
ちいさなインドの出版社が届ける「世界を変える」絵本
ふんわりとした温かい手触りの紙、絵本を開くたびに立ちのぼるインクの香り……。『しっぽばなし』のページをめくると、インド民俗の独特な力強い絵が、鮮やかな色彩と共に、目に飛び込んできます。
『しっぽばなし』。手に取ると、手漉きの紙の重なりで、ふんわりとした厚みを感じます。
タラブックスは、インドのチェンナイにある小さな出版社。インド少数先住民族に古くから伝わる芸術を、一冊一冊手作りで美術品のような絵本にし、世界に届けてきました。紙を漉き、染め、一色ずつシルク印刷を施し、最後は丁寧に手作業で製本していきます。オールハンドメイドの絵本は、数々の賞を受賞し、世界中のファンを魅了し続けています。
タラブックスのオフィス外観。館内のいたるところにインドの民俗画が描かれ、気持ちのよい空間に。
この世の宝のような美しい本を創り出す――タラブックスにとって、この事業そのものが、「よりよい社会を作る」社会運動です。
これまでインドでは顧みられることのなかった民俗画に光を当て、代々壁に描かれ、口伝えで受け継がれた話を絵本の形にしました。そして、少数民族や伝統工芸の職人など、インドにおける社会的に弱い立場にある人と対等な関係を築き、働く場を整えます。
本づくりの工場の人々が心地よく誇りをもって働けるよう、環境づくりに心を配り、必要に応じて教育の援助をし、まるでひとつの大きな家族のような出版社を作りあげているのです。
タラブックスの絵本には、美しさだけでなく、のびやかでフェアな働き方、社会の在り方を問いかける力強い精神が宿っています。
『しっぽばなし』の制作風景。タラブックス代表ギータ・ヴォルフ(奥右から2人目)と絵本の内容を詰めます。
印刷のインクは植物由来のもの。職人の健康にも心を配ります。
「アートとクラフトの融合」。訳者・谷川俊太郎氏が感じるタラブックスの魅力
「タラブックスは、アートとクラフトを融合していると思ったの」
今回、『しっぽばなし』の翻訳を手がけた谷川俊太郎氏は、そこが他のメッセージ絵本と違うところだと、タラブックスの絵本の魅力を語ります。
手前が谷川俊太郎氏訳の日本語版『しっぽばなし』。繰り返し読みたくなる、リズミカルなことばの連なり。
「僕は、絵本をクラフトにするのに賛成なの。クラフト、つまり“手仕事”を大切にしているのだよね」
今、社会が「頭でっかちになってしまっているから……」と、人の「手」を感じる絵本の大切さを指摘します。
谷川俊太郎氏のことばは、リズミカルで、口にするのが心地よく、読むたびごとに新しい発見を読み手に与えてくれます。これまでタラブックス絵本と出会っていなかった子どもたちにも届けたい絵本になりました。
【動画】『しっぽばなし』ができるまで
かけがえのない自分の価値に気付く、一匹のねこの物語
『しっぽばなし』は、ちいさなねこが主人公。自分のしっぽが気に入らないねこは、しっぽ探しの旅に出ます。さまざまなしっぽとの出会いは、社会との出会いでもあり、自分自身との対話でもあるようです。
しっぽ探しに出かける主人公。文字にも「しっぽ」が躍ります。紙の原料はコットン古布。1枚として同じものはなく、手漉きの温かさが伝わります。 『しっぽばなし』の裏表紙にはシリアルナンバーが刻まれています。1冊1冊が世界でただひとつの絵本。かけがえのないすべての人の手に届くことを願います。
しっぽばなし
タラブックスの世界で最も美しいハンドメイド絵本。自分のかけがえのない価値に気付く、ちいさなねこの物語『しっぽばなし』は、ちいさなねこが理想のしっぽ探しの旅へ出かける物語。ありのままの自分の大切さに気付いていきます。ワルリ族にルーツをもつ芸術家、ワイエダ兄弟により、自然や生きものを繊細なタッチで表現。そして、谷川俊太郎氏の珠玉のことばでお届けします。シリアルナンバー入り。
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ツシャール・ワイエダ マユール・ワイエダ/絵
アヌーシュカ・ラビシャンカール/文
3960円/世界文化社