モダン肥前磁器のあるテーブル 第2回(全4回) 肥前磁器とは、江戸時代に肥前国だった地で作られる器のことで、そのエリアは現在の佐賀県、長崎県にまたがっています。空間コーディネーターの佐藤由美子さんと、手持ちの器と組み合わせて使える器を制作。伝統の陶技に、新しい時代の感性を取り入れた器を、特別に誌上販売します。
前回の記事はこちら>> ★のついている器は誌上販売対象商品です。価格には送料が含まれています。手作りの品のため、サイズや色、形、仕上がりなどが写真や説明と異なる場合があります。商品一覧はこちら>> 畑萬陶苑──鍋島焼の系譜を受け継ぎつつ、新たな作風に挑む
〈奥〉「★キュイール 銀彩 リム付きプレート」サークル型 径26×高さ1センチ 2万3500円。〈手前〉「★キュイール 銀彩 木瓜プレート」木瓜型 縦21.5×横23.7×高さ1.8センチ 2万9000円。革の質感を磁器で表現した“キュイール”。「1人分の膳として食後のデザートをのせたり、取り回しのトレーとしてスープをお出ししたり、のせる器の素材、色、形を選びません」と佐藤さん。表面に微妙な凹凸があるので、器が滑りにくいのも特徴。縁には銀彩が品よく輝く。古伊万里、漆器、ガラス……
どんな器も受け止める“キュイール”の器
江戸時代、佐賀鍋島藩窯で将軍家への献上品を納めていた地が大川内山。“秘窯の里”と呼ばれるここでは、今も伊万里鍋島焼が作られています。「藩から将軍家や大名家への献上品を作るよう命があり、良質な原料と手間を惜しまず作られた鍋島様式。
その伝統を柱に、今までにない面白いものを作りたい」と語るのは4代目当主の畑石真嗣さん。その言葉どおり、5年の歳月をかけて開発したのが、フランス語で革を意味する“キュイール”です。
サークル型は、のせる器の形を選ばず便利。銘々のお膳として、自宅で眠っている漆器のお椀をのせれば、格段にモダンな雰囲気に。おもてなしの場で、オールドバカラなどのガラスの酒器をサイズや柄違いで置いて、お気に入りを選んでいただくのも素敵。皮革のシボと見まがう質感は、何度も焼成を重ね、瞬時に冷やすことで凹凸にひびが入ったもの。ランダムに入る細密なひびは、真嗣さんにしかできない妙技です。
縁起のよい木瓜文様をかたどった、やや小ぶりのプレート。「華やかな絵付けが施されたベルリン王立磁器製陶所のカップ&ソーサーなど、洋食器にもよく合います。また古伊万里染付の蓋付き碗に、あえて和菓子を入れると現代的な印象になります」と佐藤さん。「表情豊かな黒を引き立てるように、縁にプラチナを施していただきました。古伊万里、蒔絵椀、洋食器、ガラスなど、どんな器もモダンに引き締めてくれます」と佐藤さんも絶賛。
〈奥〉「★更紗文 銀彩 デミタスカップ&ソーサー」〈手前〉「★更紗文 金彩 デミタスカップ&ソーサー」ともにカップ径4.5×高さ4.7センチ、ソーサー縦9.8×横14.8×高さ1.3センチ、各2万3500円。繊細に線描きされた更紗文様の花は、幾層もの淡いグラデーションで奥行き感を生み出している。デミタスカップの手と雲形のソーサーの縁には、それぞれ銀彩と金彩が施され上品。「カップをソーサーにのせて小菓子を添えてティータイムに、またソーサーに前菜を、カップに野菜を盛ってアペロタイムにと、使い方は自由自在。愛らしいサイズも魅力です」。佐藤さんの多彩な演出が光る。対照的に、上質な白磁を生かした作品も必見です。染付の藍と赤絵付けの赤、黄色で更紗文様を描いたカップ&ソーサーには、細緻な線描きの技が宿ります。
万華鏡唐花文の器は、白磁の部分は釉薬をかけずにざらっとした手触りのマットに、文様の部分だけ釉薬をかけ立体的に。「藍の線描きが鍋島の伝統ですが、あえてグレーにしました」と長男の修嗣さん。確かな技をもとに、それぞれのアプローチで固定観念を覆す作品に挑んでいます。
〈奥〉「★瑠璃焼締 万華鏡唐花文 23.5cm Plate」〈手前〉「★グレー焼締 万華鏡唐花文 23.5cm Plate」ともに径23.5×高さ2.8センチ、各2万9000円。「学生の頃、銀座の和光で父の万華鏡の大皿を見て実家に戻り仕事をしようと思いました」。修嗣さんが感銘を受けた万華鏡の意匠の一部を、白磁に施した器。料理を盛って完成するように計算されている。艶めく唐花とマットな白磁の組み合わせが洒脱。熟練職人による、万華鏡唐花文の精巧な上絵付け。唐花の輪郭に極細い筆で赤をのせ存在感を出していく。伊万里鍋島焼が誇る技術が窺える。★誌上販売対象商品をチェックする>> Information
畑萬陶苑(はたまんとうえん)
佐賀県伊万里市大川内町乙1820
伝統の技に裏打ちされた気品と革新的な作風
昭和元年、畑石萬太郎によって萬洋窯の名で創設。将軍家への献上品を手がけた鍋島焼の伝統を継承し、高品質の素材や卓越した職人技を追求する一方、時代のニーズを的確に捉えたデザイン、磁器の可能性を広げる独自の素材開発など、常識を覆す発想で新商品を生み出し続ける。なかでも、光に透けて白い磁肌に絵柄が浮かび上がる「透かし彫り」や、皮革のような質感を表現した「キュイール」、マットな質感の青磁「モイスト」は高い評価を受けている。 唐花を万華鏡に見立てた真嗣さんの作品。水に溶け込む絵の具を独自開発し、澄んだ瑠璃色の表現を可能にした瑠璃焼締技法を用いて描かれている。「瑠璃焼締 万華鏡唐花文 飾皿」44万円。伝統的な絵付けの香水瓶。右から、紗綾形とキュイールを交互に配した「キュイール 地紋尽くし文 木瓜香水瓶」11万円。先代考案の立体的な梅の花を用いた「梅詰 香水瓶」8万8000円。のびやかな構図の「赤濃唐花文 丸香水瓶」6万6000円。「畑萬陶苑」4代目代表取締役社長の畑石真嗣さん(左)と、彫刻や陶芸を学び作家としても活躍する長男の修嗣さん(右)。
表示価格はすべて税込みです。 撮影/久間昌史 コーディネート・料理/佐藤由美子
『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。