診断を正しく理解するためのケーススタディー
ケース(1)
「様子をみましょう」といわれてがっかり。腰痛を何とかしてほしいのに
Aさん(53歳)は1週間前からの腰痛で歩くのもつらく、整形外科を受診しました。 医師は、痛むのはどの場所か、手足にしびれがないか、転倒していないか、どんなときに痛むかなどを詳しく聞き、その場で前かがみや後屈をさせて痛み具合をみるなど丁寧に診察をしてくれました。
ところが、レントゲンもCTも撮らず、「様子をみましょう。治らなかったらまた来てください」で診察は終了。痛み止めの薬も出してもらえず、Aさんは期待外れでがっかりしてしまいました。別の病院にかかろうかと悩んでいます。
【患者の心得】
「おおむねこのままよくなる」と同じ意味にとらえればよいこの医師は、丁寧な診察の結果、Aさんの腰痛が内臓疾患や骨折など重い病気や外傷から生じている可能性は少ないと判断したのでしょう。そうであれば、ほとんどの急性腰痛は自然によくなり、精密検査も痛み止めの薬も必要がありません。「様子をみる」は患者さんに最も優しい医療行為であり、「何もしなくてもそのうちによくなる」というメッセージととらえてください。
「時間は最良の検査であり薬である」という言葉があります。時間を上手に使って様子をみて、万が一の事態を見逃さないために次の診察の約束をする。経験豊富な医師だからこそできることです。
ケース(2)
「治りますか?」と聞いたら「わかりません」との返事。私は治らないのでしょうか
昨日から突然片方の耳が聞こえなくなったBさん(50歳)。丸1日たっても改善しないので心配になり、総合病院の耳鼻科を受診しました。診断は突発性難聴。早めに治療を始めれば予後はよいと思うといわれ、ステロイド薬を処方されました。
しかし、恐る恐る「私の耳は治るでしょうか」と尋ねると、なんと「わかりません」との返事が! 専門医が治るかどうかわからないほど重症なのか、このまま耳が聞こえなくなってしまうのかと不安でいっぱいになりました。「わからない」とはどういう意味なのでしょうか。
【患者の心得】
医師の「わからない」は「確実なことはいえない」の意味私(尾藤)も大学時代に同じような経験をしています。右目をテニスボールが直撃し、真っ赤に充血して、直後に視力を失ったのです。眼科医の診断は「前房出血」。眼球の一部から出血し、一時的に見えなくなっているとのことでした。
私が「治りますか?」と聞くとその医師の返事も「わかりません」でした。当時は私も不安におののきましたが、幸い大事には至らず、今思えばそれは「確実な保証はできない」の意味だったと理解できます。
医師の「わかりません」は、「不確実なことは軽々しくいえない」という慎重さから発せられる言葉なのです。
ケース(3)
診察中にパソコンばかり見ている
高血圧で定期的に通院しているCさん(58歳)。主治医が診察中、パソコンにばかり向いているのが不満です。ろくに顔も見ずにきちんと診断ができるのでしょうか。
【患者の心得】
カルテの作成は重要な仕事患者さんの病状をパソコンのカルテに記録するのは医師の非常に重要な仕事です。これがなければ、基本情報や経過がわからず、毎回初診と同じ。適切な診断をくだせません。ただ、表情や顔色も重要な診断材料です。まったく顔を見ないのは医師の対応としてはよろしくないですね。