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追悼・扇千景さん 第3回「対話から得た気づき」中村虎之介さん

2023.08.02

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【追悼】2人の息子と2人の孫が語る 偉大な女性(ひと)扇 千景 第3回(全4回) 女優から政治家へと転身し、歌舞伎役者の妻の務めも果たした扇 千景さんが2023年3月にご逝去なさいました。その人生をご家族の言葉を通して偲びます。前回の記事はこちら>>
扇 千景さんの遺影

扇 千景
1933年兵庫県生まれ。県立神戸高校を卒業。宝塚音楽学校を経て女優となる。1958年歌舞伎俳優2代目中村扇雀(4代目坂田藤十郎・人間国宝)と結婚。女優業、『3時のあなた』の司会等を務め、1977年参議院議員初当選。以後国政に励み、数々の要職を歴任。2001年1月初代国土交通大臣就任。2004年に女性初の参議院の議長に選出される。2007年に政界を引退。2010年に女性初の桐花大綬章を受章。2023年3月9日に死去。

対話から得た気づき


中村虎之介



祖母は人に弱い部分を見せない人なので、僕たちの前では平然としていましたが、入院中はおそらく相当苦しかったんだろうと思います。亡くなる2日前の朝にお見舞いに行ったのが最後となりました。そのときは2度ほど危機を乗り越えた後だったようですが、顔色もよくて病人とは思えない感じでした。お別れのときの顔はとても美しくて穏やかで、まるで眠っているかのようでした。

祖母と僕との対話は、いわゆる “おばあちゃんと孫” という感じではありませんでした。僕から見た祖母は、宝塚歌劇団を経て女優になり、国会議員としても活躍し、力強く人生を歩んできた人です。そのせいか家族との接し方もフランクではなく、みんなから「ママ」と呼ばれていましたが、僕からすれば偉い人に気遣うような距離感で、一緒にいるときは常に緊張していました。

僕は帰宅すると祖母の家に必ず挨拶に行くのですが、それは先輩の楽屋に入るときの感覚に似ていました。ですから人から「おばあちゃんは元気?」と聞かれると「扇は元気です」と答え、「祖母は元気です」と答えたことはありません。常に僕にとって「扇千景」という存在だったからです。

あるとき、プライベートなことについて話していい合いになったことがありました。考え方が違うことに気づき、何をいっても敵わないと思ったのと同時に、僕自身の見方も大きく変わりました。それからは敬語を使わなくなりました。祖母の理想とする自分にはなれないけれど、僕自身は自分が歩むべき道を歩もうという気持ちになれたのです。

扇 千景という人を人間としてもちろん尊敬していますし、その孫であることに感謝しています。だからこそ祖父母が亡くなった今、僕にとって新しい人生がスタートしたと思っています。

扇 千景さんのご遺族

増上寺で行われた本葬前にマスコミの取材に応じる息子たち。右から孫の中村壱太郎さん、長男の中村鴈治郎さん、次男の中村扇雀さん、孫の中村虎之介さん。

扇 千景さんの祭壇

祭壇では胡蝶蘭、スプレーマム、カーネーション、バラ、トルコギキョウなどで扇が表現された。上段には遺骨と位牌とともに天皇陛下からの「祭粢(さいし)料」が供えられ、中段には旭日大綬章や女性で初めて受章した桐花大綬章、従二位の位記が飾られた。撮影/岡積千可
構成・文/山下シオン

『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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