写真/Kmo〈PIXTA〉うつくしよし
選・文=山口仲美(日本語学者)蟬しぐれの季節です。いろんな蟬がいますが、鳴き声の目立つのは、ツクツクボウシ。あなたは、ツクツクボウシの声をなんと聴いていますか?
夏目漱石は「おしいつくつく」と聞いて、「惜しいつくづく」の意味を掛けています。
島崎藤村は「おうしいつくつく」と聞いて、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを飲むときに言いそうな「美味しいちゅくちゅく」の意味に聞いています。
写真/翔風〈PIXTA〉私が、一番気に入っているのは、平安時代の歌人・源 俊頼の聴き方。彼は、こんな歌を詠んでいます。
「女郎花(おみなえし) なまめきたてる 姿をや うつくしよしと 蟬の鳴くらん」。
蟬の鳴く木の傍らにみずみずしく美しい女郎花が咲いている。それを見て、蟬は「愛らしくてすばらしい!」と鳴いているのだろうという意味の歌。
「うつくしよし」と鳴かれたら、人知れずにんまりしてしまいそうです。
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