尾上右近(おのえ・うこん)歌舞伎俳優。1992年東京都生まれ。江戸浄瑠璃清元宗家・七代目清元延寿太夫の次男。2000年、7歳で歌舞伎座『舞鶴雪月花』にて初舞台。2005年、12歳で新橋演舞場『人情噺文七元 結』にて2代目尾上右近を襲名。2018年浄瑠璃方の名跡七代目清元栄寿太夫を襲名。映画『燃えよ剣』で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2023年8月2日、3日に浅草公会堂で自主公演「研の會」の公演を控えている。URL:https://www.onoeukon.info歌舞伎俳優と8人の現代美術家が繰り広げるトークセッション
歌舞伎俳優の尾上右近さんと、8人の現代アーティストによる対談集。
お相手は、横尾忠則さん、田名網敬一さんといった大御所から、日本の民間人として初めて宇宙旅行をした前澤友作氏によって国際宇宙ステーションに作品が設置された井田幸昌さん、レディー・ガガが愛用した「ヒールレスシューズ」を手がけた館鼻則孝さんといった同世代まで、さまざまだ。
「子どもの頃から、歌舞伎の延長線上にあるものとしてアートに親しんできました。大好きな曽祖父の6代目尾上菊五郎の写真集に、自身が描いた竹林の絵が掲載されているのですが、その絵をよく模写していましたね。日本画の先生について習っていたこともありました。僕は作品を見るときにいつも“この人は何を考えてこの絵を描いたんだろう?”と考えるくせがあって、たとえば昔の歌舞伎絵を見て、“写楽に話を聞いてみたい!”とずっと思っていました。現代のアーティストなら、直接会うことができます。ですから話を伺うのが本当に楽しかったですね」
わかりにくい、難しいと思われがちな現代アート。どのような準備をして対談に臨んだのだろうか。
「作品やプロフィールなどは事前に拝見しましたが、特に対談のテーマや質問を準備しておくといったことはしませんでした。それぞれの作家さんのスタジオにお伺いすることができたので、制作中の作品などを見せていただきながら、自然に話が進んでいきました。現代アートも歌舞伎も“ハードルが高い”というイメージがありますが、僕は、入り口は“人”なのではないかと思っています。歌舞伎は僕を知ってもらうことで、現代アートも作家さんの人となりを知ることで、その先に広がる作品鑑賞への扉を開くことができるのではないでしょうか」
ジャンルは違えども、お互い“表現”を仕事にしている者同士。右近さん独特の言葉遣いも相まって、対話は深く、高く、自由自在に広がっていく。
「僕はとにかく会話が大好きなんです。歌舞伎の先輩がたや友人たちと話したり、一人で考えごとをしたりしながら、いつも言葉を“こすりにこすって”、伝わりやすいいい回しを探しています。アーティストの皆さんもそれぞれご自身の言葉をお持ちで、それが僕自身へのよいインプットになりました。アーティストの皆さんの中で、僕の言葉が少しでも生きてくれたら嬉しいです」
この対談をきっかけに、2023年8月の自主公演「研の會」のポスターを横尾忠則さんに依頼したという右近さん。井田幸昌さんも、右近さんの舞台を描く試みをしてみたいと話し合っているという。
アートと歌舞伎が接近して生み出される新しい動きに期待が高まる。
デザイン/松田行正、杉本聖士、倉橋 弘、金丸未波〈マツダオフィス〉『右近 vs 8人 尾上右近 アーティスト対談集)』
尾上右近 著/PARCO出版尾上右近が井田幸昌、田名網敬一、エリイ(Chim↑Pom from Smappa!Group)、佃 弘樹、横尾忠則、館鼻則孝、中野泰輔、友沢こたお(掲載順)の8名の現代アーティストと語り合う対談集。
「#本」の記事をもっと見る>> 構成・文/安藤菜穂子
『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。