臓器と機能を温存でき、痛みがない放射線療法
井垣 浩先生(いがき・ひろし)国立がん研究センター 中央病院 放射線治療科 科長。1995年東京大学医学部を卒業。2002年同大学大学院医学系研究科にて博士(医学)を取得。都立駒込病院、帝京大学医学部准教授等を経て、2014年に国立がん研究センター中央病院放射線治療科に入職。2021年から現職。がん種やステージによっては治療効果は手術と同等
放射線療法は、手術、薬物療法とともに、がんの3大治療法の1つです。放射線療法の特徴は、臓器の外側、場合によっては内側からがんに放射線を照射することで、手術のように皮膚や臓器を切除せず、臓器を温存できることです。それによってその臓器の機能も保たれます。また、ほとんどの場合に入院は必要なく、通院で受けられるのもメリットです。がんの種類や組織型、ステージによっては手術と同等の治療効果が期待できます。
放射線療法の効果は、放射線を照射した部分にだけあらわれます。放射線が細胞を透過すると、そのエネルギーが細胞の遺伝子を傷つけます。この作用は、正常細胞よりも、細胞分裂が激しく、かつ遺伝子が傷つきやすいがん細胞に対して強く働きます。そこで放射線をがん細胞のある部位に絞って照射し、がん細胞を死滅させたり、増殖を止めたりするのです。
手術や薬物療法と併用されることもある
放射線療法は、主に(1)原発の臓器に留まっているがんの根治、(2)進行がんの緩和の2つの目的で使われます。
井垣先生は、「早期のがんでは手術が第1選択になっていることが多いのですが、乳がんや子宮頸がんなど放射線療法が効きやすいがん、また、がんがやや大きくて手術の適応ではない場合、高齢である、持病があるなどで手術ができない場合には放射線療法はよい選択肢となります」と説明します。
放射線療法単独ではなく、手術や薬物療法と併用することもあります。例えば、早期の乳がんでは、手術でがんを切除した後に放射線療法を受けるのが標準的です。食道がんやすい臓がんなどでは抗がん剤と放射線療法を同時に行うことがあります(同時化学放射線療法)。
また、ほかの臓器も含めて全体で数個だけ再発あるいは転移がみられる場合にも放射線療法が使われるケースがあります。
一方、進行がんでは、骨転移、脳転移、がんが進んで臓器の機能が損なわれたときなどに放射線療法が用いられます。「例えば、骨転移では、放射線の照射後、がんそのものの大きさは変わっていないのに痛みやしびれが取れる患者さんがいます。また、骨転移で骨がもろくなり骨折しやすくなるため、その予防としても使われます」。
【治療の選択肢の1つとして、放射線療法の目的や方法を知る】
(1)放射線療法の目的
「根治」と「緩和的治療」の2つの目的がある→自分のがんでは放射線療法が選択肢になるかどうかを放射線腫瘍医によく相談しましょう
(2)放射線療法の流れ
検査の後に照射方法が綿密に計画される→最も一般的な外照射は5日連続して照射を受け、2日休むのが標準的なスケジュール。効果を発揮させるには継続が重要です
(3)放射線療法の副作用
「治療中から数か月までの急性影響」と「数か月以降の晩性影響」がある→副作用は照射部位や線量によって異なり、個人差も大きいのが特徴です。放射線腫瘍医にあらかじめよく聞いておきましょう
※次回へ続く。