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100年に一人の天才、ルネ・ラリックの世界。それまでにない画期的なデザインのジュエリー

2023.08.08

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これぞジュエリーの真髄 第8回(02) アールヌーヴォーとルネ・ラリック 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を、宝石史研究家の山口 遼さんの解説で紐解くジュエリー連載。第8回は、アールヌーヴォーとその天才、ラリックについてご紹介します。前回の記事はこちら>>

100年に一人の天才 ルネ・ラリックの世界


第6回のファベルジェでも触れましたが、ジュエリーのデザインは基本的には繰り返しです。

しかし100年に一人か二人、それまでにない画期的なデザインを作る天才が出る。そして次の世代はそれを模倣する。こうした天才の一人が、フランスのルネ・ラリックです。

ラリックは20歳になる頃まで英国でジュエリー作りの技術をしっかりと学びます。帰国後ラクロシュやヴェヴェールなどの宝石店のためにデザイナーとして働きます。


後年のラリックからは想像もできない、最も初期の作品1を見てください。

[ルネ・ラリック 作]ダイヤモンド・ネックレス

1.[ルネ・ラリック 作]ダイヤモンド・ネックレス
製作年代:1890年頃
製作国:フランス


ダイヤモンドの連続したループの中央にダイヤモンドを吊り下げた見事なデザインですが、非常にオーソドックスです。

[ルネ・ラリック 作]ラシルス・ヒルスタスのリング

2.[ルネ・ラリック 作]ラシルス・ヒルスタスのリング
製作年代:1902~1904年頃
製作国:フランス


2のダイヤモンドを渋い色合いの透明なエナメルの葉模様で取り巻いたリングも、ラリックらしさは多少見えていますが、まだアールヌーヴォーとはいえません。

ラリックの生涯、あるいは作品群を仔細に見ますと、彼が本当に興味を持ったのはジュエリーというよりガラスではなかったかと思えます。独立し始める1900年前後から、彼の作品にガラスが入ってきます。ジュエリーの世界でガラスといえばエナメルですが、彼の場合は鋳込んだり削ったりしたガラスも使っています。

[ルネ・ラリック 作]冬景色のペンダント

3.[ルネ・ラリック 作]冬景色のペンダント
製作年代:1898年頃
製作国:フランス


高名なのは冬の森林を描いたペンダント3。これはバリエーションも含め数個作られたようですが、雪の積もった葉の部分はエナメル、上と左のブルーの石は色ガラス、半透明な木立の部分が鋳込んで削ったもの。宝石といえるのは真珠だけですが、美しい。

彼はまた、日本の文物から大きな影響を受けています。

[ルネ・ラリック 作]ヘーゼルナッツの髪飾り

4.[ルネ・ラリック 作]ヘーゼルナッツの髪飾り
製作年代:1900年頃
製作国:フランス


典型的な作品4は動物の角を削り出した髪飾り。葉脈を彫り出した葉の上に、ヘーゼルナッツの実物を薄い金板で留め、左にくねるように曲がった金の曲線を配しています。どこを見ても日本の工芸品のようです。

さらに彼が追いかけたデザインテーマのひとつが女性像。

[ルネ・ラリック 作]パンジーの精のペンダント/ブローチ

5.[ルネ・ラリック 作]パンジーの精のペンダント/ブローチ
製作年代:1899~1901年頃
製作国:フランス


5は俯き加減の表情など、すばらしい作りです。金の顔の上に薄緑色のエナメルをかけ、それを左右と下に広がる透明のエナメルに繋げている。

[ルネ・ラリック 作]ヴェールを着けた裸婦のペンダント

6.[ルネ・ラリック 作]ヴェールを着けた裸婦のペンダント
製作年代:1904~1905年頃
製作国:フランス


6は金箔をおいた板の上に、裸の女性をガラスで作り、ヴェールの部分は恐らく彫り出しています。

ラリックは宝石というものを重視しなかったのですが、オパールだけはガラスに似て色が自在に変化するからでしょうか、好んで多用しています。

[ルネ・ラリック 作]オパールとスフィンクス・リング

7.[ルネ・ラリック 作]オパールとスフィンクス・リング
製作年代:1900年頃
製作国:フランス


7は薄い金だけで非常に難しいセッティングをしています。金の腕の側面には、エナメルを伴うスフィンクスと思われる像が彫ってあります。

[ルネ・ラリック 作]スカラベと葉飾りのネックレス

8.[ルネ・ラリック 作]スカラベと葉飾りのネックレス
製作年代:1905年頃
製作国:フランス


ラリックは1910年前後になるとジュエリー作りから遠ざかりますが、8はその頃のガラスのネックレス。濃い緑色のガラスを流し込みスカラベを作り、金の板で裏打ちを施した、風合いのある作品です。

1945年まで長生きした彼が、ジュエリー製作を全うしなかったのは残念ですが、彼の作品は今日に至るまで、ジュエリーデザインの世界に多大な影響を残しています。

こうした素晴らしい作品が、一種の里帰りのように、アルビオンアート・コレクションとして日本に数多くあることを是非知ってください。
監修・文/山口 遼 撮影/栗本 光

『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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