「障害のある人たちは、人間が持つ能力を僕の何倍も生かしています」──松岡さん
健康とは一人一人が自分で探し出すもの
松岡 亜紗さんは健康というものを、どのように捉えていますか。
伊藤 病気の逆ではないですよね。病気の人にもその人なりの健康はあって、輝いている人もたくさんいますから。みんながそれぞれ自分なりの健康を探すものなんだろうなと思います。
松岡 自分なりの健康探し。
伊藤 病気や怪我をすると、完全にもとの体に戻ることはできませんよね。それで皆さん、変わってしまった体とともに、自分が納得できる「新しい健康」を探されるのだと思うんです。病気や障害とともに生きる人は、自分の体に関する一番の研究者で、道なき道をいくように探っていって、「2日後にくる低気圧に備えて、今日これをやっておく」といった自分だけの法則を見出される。でも、その法則どおりにしても、いつもうまくいくとは限らないのが厄介なところで、ある意味、常に体に翻弄されていると思うんですね。そういうことも含めて、体とつきあうことを楽しめるのが、健康でしょうか。
松岡 もとに戻れず、翻弄されるという点では、加齢とともに訪れる体の衰えも同じですね。そう考えると、誰もが自分だけの健康を探す旅をしている仲間ということでしょうか。僕も、思いどおりにならないことも面白がりながら、旅を続けていこうと思います。
修造の健康エール
信頼関係があってこその話ですが、と前置きをして、亜紗さんはご自身について興味深い話をしてくださいました。とても親しい人が、自分がどもると嬉しそうに笑う。常識的に考えたら失礼な話だけど、そのことに救われる。そう亜紗さんはいいます。自分がどもったとき、多くの人は気づかないふりをしたり、言葉が出るまで待ってくれたりして、それはそれで、優しい気遣いが嬉しい。
「でも、友人が笑うと、すごく楽になるんです。社会生活で誰もがかぶっている “演技の皮” みたいなものをさっと剝がされる感覚で、恥ずかしいけれど、ほっとする。剝いじゃえばみんな同じだよ、といわれている感じでしょうか」。
僕も “演技の皮” を剝がして、健康旅を満喫していきます。
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。近著に『教えて、修造先生! 心が軽くなる87のことば』。ライフワークは応援。公式インスタグラム/
@shuzo_dekiru撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。