〔連載〕天野惠子先生のすこやか女性外来 くしゃみをしただけで尿が漏れて不快だ、トイレが近くて旅行や観劇を楽しめない──。更年期世代の多くの女性たちが、人知れず尿漏れや頻尿に悩んでいます。予防と改善に有効なのが、いつでも誰にでもできる「骨盤底筋トレーニング」。「習慣化し、尿トラブルの煩わしさと無縁の毎日を」と天野先生も一押しのセルフケアです。
前回の記事はこちら>>多くの女性が悩んでいる、尿漏れ、頻尿、膀胱炎......。更年期以降のQOLを大きく下げるさまざまな「尿トラブル」
天野惠子先生(あまの・けいこ)静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。【尿漏れ】
くしゃみや咳、大笑いなど、おなかに力を入れたとき漏れる「腹圧性尿失禁」女性の尿漏れには主に2つのタイプがあります。約半数を占めるのが咳やくしゃみ、大笑い、重いものを持ち上げたときなどおなかに力が入った拍子に漏れる「腹圧性尿失禁」。
加齢やエストロゲン分泌の低下、出産などで骨盤底(膀胱、子宮、直腸を支え、筋肉の収縮と弛緩で排泄の調節をしているハンモック状のプレート)がダメージを受け、骨盤底筋がゆるみ尿道口を締める尿道括約筋も弱くなることなどが原因と考えられています。
急に強い尿意が生じてトイレに間に合わず漏れる「切迫性尿失禁」唐突に、抑えられないほどの強い尿意(尿意切迫感)が起こり、トイレに間に合わず漏れてしまうのが「切迫性尿失禁」。蛇口から水を出した瞬間や水の流れる音が引き金になることもあります。
外出先でも不意に尿が漏れてしまうためさまざまな活動の妨げとなり、QOLは大きく下がります。加齢や骨盤底のゆるみが関係していると考えられており、主な原因は過活動膀胱。閉経後は腹圧性と切迫性の両方を併せ持つ混合性尿失禁も増えてきます。
【頻尿】
一般的な排尿回数は日中4~8回、夜間1回未満。それ以上多いと「頻尿」一般に排尿回数は日中4~8回、夜間1回未満が正常とされ、それより多い場合を頻尿といいます。しかし個人差があり、多少回数が多くてもそれによって困ることがなければ特に気にする必要はありません。
単に水分の摂りすぎだったり、なかには精神的ストレスによる心因性の場合もありますが、過活動膀胱や膀胱炎、あるいは骨盤底のゆるみにより膀胱、子宮、直腸などが落ちてくる骨盤臓器脱も頻尿の原因となります。
切迫性尿失禁や頻尿の主な原因は「過活動膀胱」
膀胱に尿が十分にたまっていなくても自分の意思とは関係なく膀胱が過敏に反応し収縮してしまう病気で、流水音やドアノブに触れたことなどが刺激となって起こることもあります。尿意切迫感を主症状とし、多くの場合、頻尿を伴います。
脳血管障害やパーキンソン病などにより脳と膀胱や尿道の筋肉を結ぶ神経回路に障害が生じて起こる神経因性と、出産や加齢などによる骨盤底筋のゆるみや骨盤臓器脱などが原因の非神経因性があります。
骨盤内の臓器を支え、排泄をコントロールする骨盤底
膀胱、子宮、直腸は骨盤底というプレートに支えられている。骨盤底が加齢や出産などでダメージを受けると骨盤底筋(骨盤底の筋肉)がゆるみ、尿道がしっかり締まらず尿漏れや頻尿の原因となる。女性の尿漏れ・頻尿をもたらす因子
●体質生まれつき骨盤底が弱い
●妊娠・出産妊娠による体の変化や出産時の産道への負荷が骨盤底を傷める
●筋肉量の減少加齢により骨盤底の筋肉量が減り尿道の締まりが悪くなる
●閉経女性ホルモンの減少により骨盤底筋や尿道括約筋がゆるくなる
排尿痛や頻尿が症状の一般的な病気「急性膀胱炎」
排尿痛(膀胱への強い刺激症状)や頻尿、残尿感、血尿を特徴とする急性膀胱炎は、細菌が尿道から膀胱に侵入して起こる感染症で、尿検査を行うと白血球が増えていることがわかります。
女性にはごく一般的な病気で、多くの場合、抗生剤治療により数日以内に治ります。また、膀胱に原因不明の慢性的炎症が生じる間質性膀胱炎でも頻尿や膀胱の痛みを生じます。
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次回に続く。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
https://joseigairai.online/YouTube
「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>> イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2023年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。