エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2023年9月号に掲載された第26回、松岡修造さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.26 和菓子でEAT TO WIN
文・松岡修造
僕にとっての和菓子は、自分を応援してくれる存在。
人を応援することが生きがいの僕にとって、和菓子は僕を自分らしくさせてくれる“食”。
実は僕には趣味がない。唯二あるとしたら“応援”と“食べること”の2つ。だから僕にとって食を制限することは過酷だ。
EAT TO WIN 。年間10ヶ月以上も海外に遠征していた自分にとって、“食”は勝つための大事な要素。栄養士さんの指導を受け、勝つために必要な食生活を心がけていた。
最大の敵は“甘いもの”。栄養士さんから最初に言われた言葉は今でも忘れない。「甘いものは敵だと思ってください。せっかく力となる炭水化物、タンパク質を摂っても糖分を摂取することでエネルギーは分解されてしまいます。強くなりたかったら甘いものは控えてください」。
雷に打たれたようだった。試合前、パスタはソースなしで素パスタ、野菜もボイルに塩のみ。徐々に素材本来の旨みを感じられるようになっていった。でもお菓子は別だ。甘党の自分にとってデザートは別腹というより特別だ。
栄養士さんから恵みのお言葉を頂戴する。「全てを制限するのもストレスになります。テニスによるカロリー消費量を考えれば、和菓子一つは大丈夫です」。脳が一気に快晴に。
それから日本に戻るたびに和菓子探しが始まった。遠征の持ち運びに適した日もちのよい和菓子。僕にとってのナンバー1は“羊羹”。口に入れた瞬間“和”を感じ、旨みが体全体に広がって自然と笑顔になっている。まさに和菓子の時間はマインドフルネス全開。
海外にいて和を感じられるひとときをできるだけ長く楽しみたいと、自分なりに試行錯誤した。行儀の悪さを認識した上でのとっておきの食べ方は、羊羹を一度も嚙まない食し方。唾液とともに羊羹が溶けて途中から口の中がお汁粉状態に。羊羹恐るべし!
和菓子は文字通り日本を感じる“食”であり、おもてなしの力がある。思いっきり和菓子を堪能して、これからも和菓子パワーで応援を全うしていきたい。
松岡修造1995年のウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりにベスト8に進出するなど、日本を代表するプロテニスプレーヤーとして活躍。現在は日本テニス協会の強化育成本部副本部長として、男子ジュニア強化プロジェクト「修造チャレンジ」などを通じて強化・育成に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』に出演するなどメディアでも幅広く活躍する。