デカマリと素敵な仲間の45年
私たちのニッポンファッション革命
天然素材を美しい色合いに染め上げた着心地のよい服で愛されるブランド「ヤッコマリカルド」をはじめ、さまざまな事業を手がけている「ワイエムファッション研究所」。渡邊万里子会長は80代の今も、感度の高い発信を続ける“ファッションビジネス界のレジェンド”と呼ばれる存在です。日本発のお洒落を元気づけてきたエピソードを連載で伺います。
Vol.21 時代を読み、大胆に舵をきる女性たち
「タイの珈琲っておいしいんです、コーヒー豆を蒸らしてとろみを出す独特の淹れ方で。まろやかな珈琲をはじめ、フレッシュジュースや気の利いたスイーツを提供するカフェをタイのヤッコマリカルドは、コロナ禍対策で経営をスタートし、とても好評です」
コロナ禍が収まりつつも、外出禁止やイベント自粛が長く続いたのはタイも一緒。タイのヤッコマリカルドは、自然光が明るく差し込む広いショールームを併設していたが、コロナ禍では対面式の“新作展示会”は開催できずにいた。この素敵なスペースの半分を有効活用するために“カフェにしたい”とプラーに提案された時、万里子はもちろん賛成したが、その返事を聞くや否や……くらいにプラーの着手は頼もしくスピ-ディだった。
お洒落なドリンク類はバリエーションも豊富。インスタグラムを活用した広報活動により、ドライブで訪れるお客さまも増えて大賑わい。
2020年末には、工場内のスペースで感染対策を万全にファッションショーを開催。ショーとともに即売会も行い、セールなしで困難な時期を乗り切った。
想定外の状況にも“新たな可能性”を見いだす目
カフェの話に限らずであるが、新しい試みがプレゼンされる際は、当然のことながら企画書に“さまざまな試算や予測数値”も添えられてくる。万里子は経営試算にはとても厳しい。数値を通して、突発的なシチュエーションを含め、あらゆる展開を常に“先読み”する目を利かせている。
目標を明確にして予算を決め、企画にGOサインを出す時も「OK、よく練られてる。でも、この数字どおりにいかない事態も起こりうる。想像できない状況が起きたとしても、どう対処するかが大切」と言い添える。「さぁどうする」「どう解決する」というのを常に考え、各自が状況へ柔軟に対処できるように“危機管理”の意識を伝えてきた。
「思い通りにいかない状況に見舞われたとき、諦めてしまえばそこでおしまい。でも“視点”を変えて立ち向かえば道は開けるのです」
新しいリーダーシップの風
ワイエムファッション研究所が海外に設立した会社のうち、万里子が最初に自分以外の者を社長としたのはタイのプラー。早々に彼女の資質を見抜いたことは、
前に説明したとおり。それから10数年後の2001年、ロンドンの「YMFデザインヨーロッパ」設立時には青(セイ)を社長とした。
「努力家で謙虚な性格、困難なことも素直な明るさで乗り切っていく様子を身近で見てきました。学びながらキャリアを私と共に重ねてきた強みを評価したのです」と万里子。青はアパレルの枠にとどまらず、ヨーロッパのトレンド情報をWEB発信したり、若いアーティストの作品の買い付けなども手がける行動派。学び深めてきたアートのネットワークに飛び込み、新しいコンテンツ業務を含め、
会社の新しい道標を示した。
実は、青とプラーは同世代。青は学生時代から夏季休暇には万里子に随行して各国で通訳をしていたこともあり、プラーとは10代終わりの頃からの旧知の仲。お互いに実力も性格も知り尽くした姉妹のような存在だ。「タイは年功序列を大切にするお国柄から、ほんの少し年上のプラーは“姉であること”を主張するところはありますけどね」と、万里子は微笑ましそうに目を細める。
まるで姉妹のようなプラー(左)と青。
2013年、日本での経営に関わるため、青はYMFデザインヨーロッパを統合して帰国。その上でヤッコマリカルドの企画全貌の把握のため、ヤッコのもとでの現場修行に入った。その後、ブランド力の強化に奔走する。
2019年に万里子は青を社長とすると決めて3年の引継ぎ期間を設けた。その決定をした矢先、2020年のコロナ禍もあって、青社長をトップとした新体制の舵取りが早まることになった。世界中の誰にとっても初めての“停滞の渦”をもフレッシュな発想で乗り越える青の行動力に、万里子はすべてを任せることにしたのだ。
私たちの「ニューノーマル」を掲げて
世界的な外出禁止の日々を通して、ネットショッピングの領域は世の中全般に著しく広がった。オンラインショッピングでは、サイズ表記も詳細化する傾向にある。
「ヤッコマリカルドもオンラインショッピングで買い物をしたい、という国内の顧客の方々のお声が増え、eコマースの売り上げの比重も拡大しました。それに伴い、いよいよブランドのサイズ表記を再構築しなくては、と思ったのです。これは本当に大変なことでしたが、青が丁寧に対処していきました」
なぜ大変だったのか。ヤッコマリカルドの服は、ちょっと大きめにデザインされたフリーサイズを、ゆったりと“オフボディ”で着こなす格好よさを特徴としてきた。「かつて、ロンドン発信によってヤッコマリカルドブランドの海外卸の拡大が加速したときにも、“サイズ展開をしてほしい”という要請は数多く寄せられたのです。それでも頑として首を縦に振らずに“文句を言う人は着なくて結構”という気持ちで1サイズだけで頑張ってきました」
なまじS・M・Lなどのサイズ展開をしてしまうと、正しくオフボディシルエットで着ない人も出てきてしまうのでは、という思いもあった。
オフボディシルエットの服だからこそ、着るひとの感性で片肩を落とすなど、洒落た着こなしが可能に。
実際に製品を測ってみると、ヤッコマリカルドの服はJISのサイズ規定のS・M・Lを超えている。「立ち上げ当初からサイズ表示をつける考えがなかった」と万里子はいうが、縫った後に染める“製品染め”という独特の工程を踏むことも理由のひとつ。ふわりと優しい着心地は、この贅沢な“製品染め”だからこそ叶う。けれど、縫った後で洗い縮めるためにひとつとして同じサイズには仕上がらない。型紙では計算できないサイズとの戦いの歴史があったのだ。今はコンピューターシステムで縮率の誤差を縮め、JIS規定の数値ではなく、独自のサイズ表記を行ってオンライン対応を整えた。
唯一無二の“着心地”と“着映え”のよさは、万里子の「ルールにとらわれないクリエイティブなこだわり」で叶えられ、青による「柔軟なサイズ表記の整備」で時代にフィットする広がりを見せたのだ。
ワイエムファッション研究所2代目の青社長は、多くに耳を傾ける“誠実な余裕”をもっている。タイ、ロンドン、インド、東欧、アメリカへと広がるヤッコマリカルドの“仲間たち”と相互に繋がるために、社内メールはすべて英語を用いるというルールも敷いた。鮮度の高い情報を時差なくすぐにシェアできるように。
さて、連載の次回では、デカマリと青の母娘対談を予定しています。どうぞお楽しみに!
ヤッコマリカルド公式オンラインショップ
E-mail onlineshop@ym-fashion.co.jp
“今”を自由に生きる人が、その個性を素敵に輝かせられるように。1977年創立の「ヤッコマリカルド」は心地よく着られる天然素材にこだわり、絶妙な美しい色合いの染めはもちろん、こまやかなピンタックなどの手仕事を軸とした丁寧なものづくりをしています。装う人の年齢を超越するような、リラックス感を伴ったモードスタイルに出会えます。
URL:
https://www.yaccomaricard-online.jp/
渡邊万里子(わたなべ まりこ)
「ワイエムファッション研究所」会長。「ヤッコマリカルド」では、ヨーロッパはロンドンを拠点に、アジアではタイ国内に15店舗、中東のクウェート、アメリカはニューヨークと、国外にも商品を展開。タイの自社工場を中心に海外にも協力工場を複数持ち、グローバルに活躍している。1938年(昭和13)北海道小樽市生まれ。84歳の今も元気に、プライベートな時間にはインナーマッスルのトレーニングジムへ通う。“発想のスケールが大きなマリ”という意味でいつしかニックネームは「デカマリ」に。明るく豪胆な人柄を慕うファン層が、業界や年代を超えて広がっている。
公式Instagram:
@dekamari_ymfashion