がんまるごと大百科 第9回【薬物療法編】(01) 2000年以降、さまざまな作用機序を持つ薬剤が開発され治療成績が向上した半面、薬物を用いたがん治療は長期化する傾向にあります。安心して治療を受けるためにも支援体制を含め、薬物療法にかかわる基本的な知識について理解しておきましょう。
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多職種のサポートを受けて長期間の治療を乗り切る
米盛 勧(よねもり・かん)先生国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科 科長。乳がん、婦人科がん、泌尿器がん、肉腫・胚細胞腫など希少がんの診療を専門とするほか、がんを対象とした医薬品開発領域においても活躍。国際開発部門副部門長、臨床開発推進部門医薬品開発推進部部長を兼任。
がんの3大治療法の一つに位置づけられている薬物療法の特徴は、がんがある部分やその周り(局所)に対して行われる手術や放射線療法とは異なり、全身に対する治療ができることです。そのため、手術や放射線療法で取りきれなかった目に見えないがん細胞を攻撃し、再発リスクを抑えて治癒の可能性を高めることができます。
「手術後だけでなく、手術前に薬物療法を実施し、がんを縮小させることによって手術で取り除きやすい状態にして治癒率を上げることも行われています」と米盛 勧先生は説明します。
一方、発見された時点でがんが進行していて手術や放射線療法の対象にならなかった場合や手術後にがんが再発した場合にも薬物療法が行われ、がんの進行を抑えることで、延命や症状の緩和を図っていきます。
さまざまな作用機序を持つ薬剤の開発で治療成績が向上
がんの薬物療法は「細胞障害性抗がん薬」を主とした化学療法が行われてきましたが、2000年頃からがん細胞の増殖や免疫にかかわるたんぱく質などを標的とした「分子標的薬」が導入され始めたことで治療成績が向上し、長生きする人が増えてきました。
さらにノーベル医学・生理学賞に輝いた本庶 佑さんらの研究によってがん免疫の仕組みが解明されると2014年には「免疫チェックポイント阻害薬」が登場。近年はさらなる治療成績の向上を目指し、免疫療法と従来の薬物療法との併用療法も行われています。
「最近は次世代のがん治療薬として注目される抗体薬物複合体の技術開発と治療成績の向上がめざましく、この薬剤ががん薬物療法の新時代を切り拓いていくでしょう」と米盛先生は最新の動向を解説します。
抗体薬物複合体は、抗体に抗がん剤などの薬剤を付加したもので、特定のがん細胞に結合する抗体に薬剤を運ばせ、その薬剤をがん細胞内に直接放出してがん細胞のみを攻撃する仕組みを持ちます。
また、薬剤の開発に伴ってがん細胞の増殖や免疫にかかわる物質や遺伝子が明らかになってきたことで、個別化治療も進んでおり、バイオマーカー検査でがんの性質などを事前に調べて効果を予測したうえで薬剤を選択することも一般的になりつつあります。
がん薬物療法が高度化かつ複雑化する中、いざというときも落ち着いて治療に取り組めるよう、この療法にかかわる基本的な知識についてまず理解しておきましょう。
【がんの3大治療法の一つである薬物療法の目的や方法を知る】
(1)薬物療法の目的
「治癒」と「延命・症状緩和」の目的がある→治癒を目指す場合は、手術や放射線療法と併用されることが多いです
→進行がんや再発がんの場合は、延命・症状緩和が目的になります
(2)薬物療法の方法
がん種や治療法ごとに決められた治療計画に基づいて実施される→1種類の薬剤で治療する「単独療法」と数種類の薬剤を組み合わせる「併用療法」があります。後者は作用の異なる薬剤を使うことで効果を高めることを狙います
(3)薬物療法を実施する期間
薬物療法による治療は長期戦。数か月から1年、数年かかることもある→通院しながら治療する「 外来での薬物療法」が一般的になっています
→普段どおりの生活ができるよう医療チームのサポートを積極的に受けましょう
※次回へ続く。
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