がんまるごと大百科 第9回【薬物療法編】(02) 2000年以降、さまざまな作用機序を持つ薬剤が開発され治療成績が向上した半面、薬物を用いたがん治療は長期化する傾向にあります。安心して治療を受けるためにも支援体制を含め、薬物療法にかかわる基本的な知識について理解しておきましょう。
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日常生活への影響についても担当医によく確認・相談し、納得のいく薬物療法を選ぶ
米盛 勧(よねもり・かん)先生 国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科 科長。乳がん、婦人科がん、泌尿器がん、肉腫・胚細胞腫など希少がんの診療を専門とするほか、がんを対象とした医薬品開発領域においても活躍。国際開発部門副部門長、臨床開発推進部門医薬品開発推進部部長を兼任。
QOLを優先する場合は効果と副作用のバランスを考慮
現在、がん薬物療法は4種類に大別されます(下表参照)。これらを実施する際は、がん種ごとに定められた「標準治療(科学的根拠をもとに専門家の合意が得られた現時点で最良の治療法)」に基づき、がんの性質やタイプ、進行度(がんの広がり)などに応じて最も治療効果が期待される薬物療法が提案されます。ただし、患者の年齢、病状、併存疾患(持病)の状態(合併症)などによって治療のデメリットがメリットを上回るときは、ほかの薬療法が提案されることもあります。
【さまざまな作用機序の薬剤が開発されている】
●薬物療法と主な薬剤の特徴 国立がん研究センター「がん情報サービス/薬物療法 もっと詳しく/薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る/免疫療法 もっと詳しく」などを参考に作成
また、治療の目的によっても薬物療法のスタンスは違ってきます。手術後の再発予防の治療は、根治(完全に治すこと)を目指しているため、効果を確実に得られるように薬剤ごとに規定された投与間隔と投与量を守り、副作用が出現してもできるだけ減量しないで治療を完遂することが重要視されます。
一方、進行がんや再発がんでは治すことよりもQOL(生活の質)が優先されるため、効果と副作用のバランスを常に考慮しながら治療を行っていきます。例えば、副作用が強く出る場合には薬剤の減量や休薬、変更などが検討されます。
選択肢を広げるうえでも標準治療を受けることが大切
こうした違いはあるものの、病期にかかわらず薬物療法の選択と決定においては「患者が何を望んでいるか」ということが非常に大事になってくると米盛先生は指摘します。
「担当医は病状を評価し科学的根拠に基づいて最良の薬物療法を提案しますが、その治療を受けることで患者さんが望んでいる生活や大切にしていることができなくなるかもしれません。費用を含め、日常生活への影響についても担当医によく確認・相談し、必要に応じてほかの専門家の意見を聞くセカンドオピニオンも利用しながら、自分が納得できる薬物療法を選ぶことががんと向き合ううえでは重要です」。
なお、世の中には科学的根拠に乏しく、かつ高額な自費診療によるがん治療が氾濫しています。
「自費診療の治療を調べたり情報を集めたりする患者さんやご家族の気持ちはよくわかります。しかし、ハイボリュームセンターといわれる経験豊富な医療機関(がん診療連携拠点病院、大学病院、がん専門病院など)で『標準治療』を受けることが肝心で、それは臨床試験への参加の可能性を含め、治療の選択肢を広げることにもつながります」と米盛先生はアドバイスします。
※次回へ続く。
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