がんまるごと大百科 第9回【薬物療法編】(03) 2000年以降、さまざまな作用機序を持つ薬剤が開発され治療成績が向上した半面、薬物を用いたがん治療は長期化する傾向にあります。安心して治療を受けるためにも支援体制を含め、薬物療法にかかわる基本的な知識について理解しておきましょう。
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高い治療効果が望める半面、治療期間は長期化する傾向に。数々の困り事にも直面する
米盛 勧(よねもり・かん)先生 国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科 科長。乳がん、婦人科がん、泌尿器がん、肉腫・胚細胞腫など希少がんの診療を専門とするほか、がんを対象とした医薬品開発領域においても活躍。国際開発部門副部門長、臨床開発推進部門医薬品開発推進部部長を兼任。
看護師や薬剤師のサポートで多様な副作用に対処する
がん薬物療法が発展し、高い治療効果が望めるようになった半面、治療期間は長期化する傾向にあります。例えば乳がんの再発予防のために行われる術後補助療法の場合、化学療法では3か月~6か月、分子標的療法では1年、内分泌療法では5年~10年続きます。延命や症状緩和が目的となる進行がんや再発がんの場合は、効く薬がある間はずっと薬物療法を継続することになります。
また、近年は定期的に通院する外来薬物療法(下図参照)や内服薬のみの薬物療法を行うことも多くなっています。
【外来薬物療法の実施には半日程度の時間がかかる】
●外来薬物療法 治療当日の流れ
国立がん研究センター中央病院HP「通院治療センター」を参考に作成
自宅で副作用をコントロールしながら治療を長期間続けるためには、自分が受ける薬物療法の内容についてよく理解しておくことが必要です。
「薬剤の種類が多い分、副作用も多様です。また、医療者が注意したい症状と患者さんが気になる症状は違うため、疑問に思うことは担当医のほか薬物療法をサポートしてくれる看護師や薬剤師にも積極的に尋ねましょう」。
医療者に何を聞けばよいのかわからないときは下のリストの質問項目を参考に。
【薬物療法を受ける前に聞いておきたいこと】
□薬の名前は何ですか
□使う目的は何ですか
□どのような効果がありますか
□治療はどのような方法で行われますか(内服、注射、点滴など)
□治療の期間はどのくらいですか
□入院の必要はありますか 通院で治療できますか
□どのような副作用がありますか
□副作用の対処法はどのようなものですか
□ほかの治療法はありますか
□治療の効果はいつ、どのようにして調べますか
□効かなかった場合の対処法はどのようなものですか
□治療にかかる費用の目安はどのくらいですか
国立がん研究センター「がん情報サービス/薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る」を参考に作成
山あり谷ありの治療だからこそ多職種で支える仕組みを活用
治療が長期化すると副作用のつらさだけでなく、外見変化への動揺や心の落ち込みが続くことも起こってきます。また、治療費の心配に加え、働けないことによる収入減など経済的な悩みも重くのしかかってきます。そのほか家事や仕事との両立、年老いた親や未成年の子どもへの病状説明など、いろいろな困り事が押し寄せてきます
「がん薬物療法はチーム医療を基本としており、多くの医療機関では多職種で患者さんを支える仕組みが出来上がっています。一人で抱え込まず、周りにいる医療スタッフ(下表参照)に何でも相談してサポートしてもらうことをためらわないでください」と米盛先生は呼びかけます。
【長い治療期間を支える主な医療スタッフ】
国立がん研究センター「がん情報サービス/薬物療法もっと詳しく/がんに携わる“チーム医療”を知ろう」などを参考に作成
次回は、がんの遺伝子を調べて一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う「がんゲノム医療」について詳しく紹介します。
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