クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第4回 ダリウス・ミヨー『屋根の上の牡牛』
イラスト/なめきみほ
ブラジル色満載の摩訶不思議なバレエ作品の由来とは
今日9月4日は、フランスの作曲家ダリウス・ミヨー(1892~1974)の誕生日ということで、彼の代表作『屋根の上の牡牛』を紹介します。
ブラジルの古いタンゴに由来するという曲名からしておかしなこの作品は、本来チャールズ・チャップリン(1889~1977)の無声映画(サイレント)のために書かれた『ヴァイオリンとピアノのためのシネマ幻想曲』でした。その後ジャン・コクトー(1889~1963)の台本によるシュルレアリスム・バレエのための音楽に編曲されたものが、現在我々が耳にする『屋根の上の牡牛』です。
さまざまな登場人物が行き交う酒場を舞台としたこのバレエ音楽には、第1次世界対戦中に過ごしたブラジルの思い出が満載。いきいきとした音楽の中に30ものブラジル民謡が引用されているのですから、ミヨーはよほどブラジルに魅せられたのでしょうね。初演は1920年パリのシャンゼリゼ劇場。ちなみに、1922年に開店したパリにある同名のビストロは、このバレエ作品に由来します。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。