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絶望、不安、孤独を希望に変える“みんなで生きてみる”ことの力。若竹千佐子さん『かっかどるどるどぅ』

2023.09.11

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絶望、不安、孤独を希望に変える“みんなで生きてみる”ことの力

文藝賞を史上最年長で受賞したデビュー作『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞、沖田修一監督、田中裕子主演で映画化され、68万部のベストセラーとなった若竹千佐子さん。一人の女性の生き方を描いたデビュー作から6年ぶりに出版された第2作は一転、5人が登場する群像劇となった。

「この6年の間に、4人の孫に恵まれました。すると、もはや自分がいない2100年の未来が、今と地続きで想像できるようになったんです。加えて、長期入院をともなう大病を患ったのですが、そこでは看護師さんや介護のかたがたが、本当に熱心に世話してくださいました。世界で戦争が起き、国内では非正規雇用の問題など、格差が広がる一方の現在と連なる未来で、子や孫は、どんな社会で生きていくのだろうか。不安と、このままではいけないという怒りが湧いてきました。それがこの小説を書く原動力となりました」

夢を諦めきれない高齢女性や未来に絶望する20代の男性。さまざまな境遇にある登場人物が、章ごとに語られながら物語が進んでいく。


「それぞれの人物に寄り添う気持ちで書いた第5章までから一転、第6章では全員がちゃぶ台を囲んで集まります。登場人物たちがおしゃべりをしながら心の内や現代社会について語り合う様子を表現したかったのです」

その場面で、この物語の要となる大きな存在が失われてしまう。しかしそれは悲劇的ではなく、未来に光を降り注ぐような喪失だ。

「死は、周囲の人々に悲しみや寂しさをもたらします。同時に、何かに奮起するための大きなきっかけにもなると思うのです。私も、主婦をしながら“いつか小説を書く人になりたい”とのんびり考えていたのですが、夫の死が、がむしゃらに小説を書く大きな動機付けになりました」

緩やかに集っていた、境遇も年齢も異なる登場人物たちは、中心を失った後もなお、“この輪っかを強く大きくするのだ”と決意する。

「私は、父母と子どもといった古来の観念ではない、もっと緩やかな、互いに力を与え合うような共同体を“家族”と考えたいのです。人間は、体は成長を止めますが、心は成長し続けることができます。そのためには、他者との関わりが必要です。自分の幸せだけを考えて小さく固まらずに、片手で自分を愛おしんで守り、もう片方の手は、他者に差し伸べる。ときには空振りをすることがあっても、意識して他者を求め、与えたり、与えられたりする関係を作ることが大切だと思います。そして、おかしいと思うことに対して、声を上げ、行動することは、諦めずに続けていきたいです」

『かっかどるどるどぅ』 
『かっかどるどるどぅ』
若竹千佐子 著/河出書房新社

女優になる夢を捨てきれない60代後半の里見悦子、自死を考える20代の木村保などが、古いアパートの一室で食事をふるまう片倉吉野と出会い、緩やかに繫がりながら生きる術を探る。印象的なタイトルの意味は作中で明かされる。装画/後藤美月 ブックデザイン/鈴木成一デザイン室

若竹千佐子さん
若竹千佐子さん(わかたけ・ちさこ)
1954年岩手県遠野市生まれ。岩手大学教育学部卒業。55歳で小説講座に通い始め、8年かけて『おらおらでひとりいぐも』を執筆。2017年文藝賞(河出書房新社)を史上最年長で受賞しデビュー。翌年芥川賞を受賞。映画化され、68万部を突破するベストセラーに。世界10か国余で翻訳され、2022年、ドイツの文学賞リベラトゥール賞を日本人初受賞。撮影/Anke Kluss

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この記事の掲載号

『家庭画報』2023年09月号

家庭画報 2023年09月号

構成・文/安藤菜穂子

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