社会が多様性の尊重に向かう中、クラシック界で活躍する黒人音楽家はいまだ少ない。そんな状況でも、ランドル・グーズビーは卓越した音楽性で注目され、名門レーベルと契約した27歳だ。
「長らく白人以外はアウトサイダーとされてきたクラシック界に黒人作曲家を引き入れるには、まだやるべきことがある」と話し、積極的に彼らの作品を取り上げ、すばらしさを伝える。 なかでも20世紀前半のアメリカで活動した初の黒人女性作曲家、フローレンス・プライスは特別な存在だ。
「黒人霊歌や賛美歌に触れて生きる中で得た精神が、ヨーロッパの伝統と合わさって生まれる音楽風景は特別。世界の聴衆に親しんでほしいです」
新譜では、没後半世紀ほど忘れ去られていた彼女の2つのヴァイオリン協奏曲を、共感を込めて奏であげる。
Randall Goosby(ランドル・グーズビー)
1996年生まれ。父はアフリカ系アメリカ人、母は日本育ちの韓国人。7歳でヴァイオリンを始め、ジュリアード音楽院でイツァーク・パールマン、キャサリン・チョーなどのもと学ぶ。数々の国際的オーディションで優勝し、2020年にクラシックレーベルの名門、デッカ・クラシックスと契約した。©Ollie Ali
韓国人の母は日本育ちで、朝はいつも日本食。日本への親しみは強い。
「差別や分断の問題は、黒人だけでなく全人種で起こり得ること。日本や韓国という自分の別のアイデンティティにも焦点を当てる活動をしたいです」
教育や社会活動にも積極的で、さまざまなコミュニティに属する人に音楽を届けるプロジェクトも行う。今の時代に必要な若き逸材だ。
編集部おすすめ
[CD]ランドル・グーズビー『ブルッフ&プライス: ヴァイオリン協奏曲 他』 485-4234 オープンプライス
ブルッフに加え、黒人女性作曲家プライスのヴァイオリン協奏曲を収録。共演のネゼ=セガンとフィラデルフィア管弦楽団は、プライスの交響曲の録音でグラミー賞を受賞している。
[収録曲]
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、プライス:「崇拝」、ヴァイオリン協奏曲 第1番、ヴァイオリン協奏曲第2番
[CD]ランドル・グーズビー『ルーツ』 485-1664 オープンプライス
ランドルのルーツの一つであるアフリカ系アメリカ人の作曲家による音楽と、その文化の影響のもと生まれた名曲を収録。現代の黒人クラシック音楽家につながるパイオニアへのオマージュ。
[収録曲]
ガーシュウィン(ハイフェッツ編):『ポーギーとベス』より「サマータイム」、プライス:「崇拝」ドヴォルザーク:ソナチネ ほか