クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第6回 ベートーヴェン『ディアベリの主題による33の変奏曲』
イラスト/なめきみほ
ディアベリの名を後世に残したベートーヴェンの力技
今日9月6日は、ベートーヴェン(1770~1827)と同時代の作曲家兼楽譜出版商アントン・ディアベリ(1781~1858)の誕生日です。
商魂たくましいディアベリは、当時の名だたる作曲家50人に、自作のワルツをもとにした変奏曲を1人1曲ずつ依頼し、長大な作品を作ろうと画策しました。作曲家目録の中には、シューベルトやツェルニーのほか、当時11歳のリストの名前も見あたります。
当然ベートーヴェンも選ばれていましたが、ディアベリが作曲した主題の拙さに辟易して当初は相手にしなかったのだとか。ところが数年後に突如1人で33もの変奏曲を書き上げます。こうしてディアベリ社から出版された作品こそが、J・S・バッハの『ゴルトベルク変奏曲』と並ぶ変奏曲史上の傑作『ディアベリの主題による33の変奏曲』です。
ちなみに「変奏曲」とは、1つの主題が形を変えながら繰り返される形式で、その曲が生まれた当時はやっていたメロディや楽曲を主題とすることが多いようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。