クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第9回 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ第9番『クロイツェル』
イラスト/なめきみほ
“知の連鎖”のきっかけとなった名曲の力とは
今日9月9日は、ロシアの文豪トルストイ(1828~1910)の誕生日です。『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』に『復活』など、数々の名作で知られるトルストイは、音楽との関係も深く、1876年12月にモスクワで行われたコンサートでは、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲『アンダンテ・カンタービレ』に感動し、涙を流すといった逸話も残されています。
隣の席に座っていたチャイコフスキーは後年、「あの時ほどの喜びと感動は、私の生涯に2度とないだろう」と記しています。そのトルストイが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番『クロイツェル』に刺激を受けて書き上げた小説『クロイツェル・ソナタ』は、嫉妬心から妻を殺してしまった男の悲劇を描いた傑作です。
一方、モラヴィア(現在のチェコ東部)の作曲家ヤナーチェク(1854~1928)がこの小説にインスピレーションを得て、弦楽四重奏曲第1番『クロイツェル・ソナタ』を書き上げたことにも興味津々。“知の連鎖”をここまで広げたベートーヴェン作品の凄さにも感服です。さて、あなたはこの曲にいったい何を感じるでしょう?
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。