クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第13回 ベートーヴェン ピアノソナタ第23番『熱情』
イラスト/なめきみほ
史上初の暗譜演奏はクララの『熱情』
今日9月13日はクララ・シューマン(1819~1896)の誕生日です。作曲家ロベルト・シューマンの妻として夫を支えながら、彼との間に生まれた8人の子どもたちを育てつつ、天才ピアニストとしてヨーロッパ中を席巻した77年の生涯は、まさに波乱万丈。
その姿は『愛の調べ』『哀愁のトロイメライ』『クララ・シューマン愛の協奏曲』などの映画や、宝塚歌劇団の『ミルテの花』『翼ある人々―ブラームスとクララ・シューマン』などの舞台作品でも印象的に描かれています。
そのクララの業績の一つが“暗譜”での演奏。1837年ベルリンでの演奏会で、クララがベートーヴェンのピアノソナタ第23番『熱情』をすべて暗譜で弾いたことが、公開演奏における史上初の出来事なのだとか。今や当たり前の暗譜も、ピアニストにとっては大変な負担です。記憶力に自信をなくした晩年のクララが再び楽譜を見るようになったことからも、その大変さが想像できます。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。