クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第15回 アントン・ヴェーベルン『弦楽四重奏のための緩徐楽章』
イラスト/なめきみほ
現代音楽の雄ヴェーベルンが残した名旋律
今日9月15日は、オーストリアの作曲家アントン・ヴェーベルン(1883~1945)の命日です。シェーンベルクやベルクと並ぶ「新ウィーン楽派」を代表する作曲家ヴェーベルンの最期ほど悲しいものはありません。
ナチス・ドイツの迫害から解放され、戦後ようやく作曲活動を再開するめどが立ったヴェーベルンでしたが、元ナチ親衛隊であった娘婿が闇取引に関与しているという疑いを持たれていたことから、ベランダに出てタバコに火をつけたところを闇取引の合図と誤認され、オーストリア占領軍の米兵に射殺されてしまったのです。これからという時だっただけに、その損失は計り知れません。
難解な現代音楽のイメージがあるヴェーベルンですが、若き日の作風は、美しいメロディに彩られていたようです。1905年に作曲された『弦楽四重奏のための緩徐楽章』はまさにその筆頭。後期ロマン派の薫り漂うこの名曲は、一説によれば、結婚相手とのハイキングがきっかけとなって生まれたといわれています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。