緑竹筍(吉利物産店 緑竹部会)
有志で守る、幻の夏たけのこ
“ずんぐ りむっくり”した姿形が特徴。
日本に来る前からたけのこには強い関心があったというアントニオさん。アーティチョークに似た風味があるため、創造力をかき立てられる食材なのです。鹿児島には幻のたけのこがあると聞いて、「吉利物産店 緑竹部会」への訪問を心待ちにしていました。
竹林でたけのこ掘り。たけのこが根から離れる位置を探り当てるのがコツ。
台湾原産の緑竹たけのこの旬は夏。霜に弱い緑竹は、南国鹿児島でも栽培が難しく、ほとんど市場に出回りません。実際にたけのこ掘りを体験し、採れたての緑竹たけのこを初めて食べたアントニオさんはその甘みとみずみずしさに驚きの声を上げました。
縦2つに切ってから薄切りにし、 軽く焼いてもおいしい。
酸化するとえぐみのもととなるチロシンがほとんどないため、生で味わえるのが緑竹たけのこの魅力。150グラムから大きくても300グラムという小ぶりで身が詰まったたけのこを見つめながら、アントニオさんは「アーティチョークを超える可能性を秘めている」とつぶやきました。
吉利物産店住所:鹿児島県日置市日吉町吉利1024
TEL:099(292)5256
しろくま/仙巌園茶寮
大名庭園でいただく癒やしの甘味
殿さまも愛でた緑の庭園で安らぎの甘味を楽しむ。
南西諸島の砂糖が手に入る鹿児島は伝統菓子の種類が豊富。さらに、鹿児島発祥の氷菓として全国に知られる「しろくま」も、ご当地甘味探訪では欠かせません。
練乳を使ったオリジナルのブレンドシロップも使ってさらりと仕上げている「さりょくま」
江戸時代初め、薩摩藩主島津家19代光久によって築かれた別邸 仙巌園内にある「仙巌園茶寮」では、「かるかん」などの伝統和菓子と抹茶のほか、オリジナルのしろくま「さりょくま」を楽しめます。
好みの上生菓子と自分で立てるお茶のセットで、鹿児島名物の「かるかん」も賞味。
築山に見立てた桜島、池に見立てた錦江湾を眺める庭園を散策した後に、優しい甘さで癒やされるひととき。イタリアの練乳とは違うさっぱりとした味わいにアントニオさんも「いくらでも食べられますね」とにっこり。
仙巌園茶寮住所:鹿児島市吉野町9700-1
TEL:099(247)1551(仙巌園代表)
旅を終えて
初めての味、どこか懐かしい味 in KAGOSHIMA
──アントニオ・イアコヴィエッロ
念願の緑竹たけのこを自らの手で掘り出して。自然な甘さを生かしたデザートに仕立てたい、とアントニオさん。
日本という国はとても特殊です。他の国とは違い、簡単に迷い道にはまってしまいます。なぜなら、食材がとにかく素晴らしく、豊富。この国の豊かな食材を使って、味わいのバランスを突き詰めて、イタリア料理として完成させる。これはかなり難しく、繊細な仕事です。僕は醬油や味噌は好きだけれども、基本的には使いません。お客さまはイタリア料理を味わいたいと思っていらっしゃるのですから、僕が醬油や味噌といった食品を全面的に使うことは求められていないでしょう。
今回の黒酢や黒酒は、隠し味としての使い方を研究します。僕のポリシーでは、ひと皿の中で主たる食材は最大で4つ。その主役を支えるためにほんの少し加えたり、あるいは味わいの引き算をして、イタリア料理とするのです。
薩摩の鶏も見たいと訪れた「かごしま自然養鶏センター」で、代表の穂満義隆さんに放し飼いの鶏と卵について話を伺う。
今回の旅を振り返ると、それぞれに豊かなストーリーがあることが印象に残っています。黒酢の“壺畑”では、古代ローマの素焼きの壺を思い出しました。ワインを造るために使われていたアンフォラという壺と同じように、壺を使って発酵熟成させるのは、稀有な伝統だと思います。
黒豚については、肉のおいしさはもちろん、牧場の運営方針、そして料理を出してくれた彼の熱意に感動しました。人と接するように豚を大切に扱い、守り続ける情熱。それを僕は料理を通してお客さまに伝えることが使命だと改めて確信しました。
マッシモ・ボットゥーラは常に「食べ物はすなわち文化である」といいますが、それは、料理人は食材の背景を伝えるアンバサダーとしての自覚を持て、ということなのです。
緑竹の生産地、そして伝統の黒酒の醸造元、漁師を支えようと頑張る水産会社、いずこの人々も、皆生き生きとしたパワーにあふれていました。緑竹にかかわっている人々はご高齢だけれど元気で楽しそうに働いていて、たけのこがエネルギーの源なのかと思ったくらい。
完成した酒ずしや郷土料理を囲んで、「東酒造」の福元万喜子会長と社長を務める息子の文雄さんと一緒に、食前酒の黒酒で乾杯。
また、酒ずしの伝統を絶やさないようにしたいという女性会長の真摯な思いを受け止めて、一段とブラッシュアップしたレシピを考えたいと思いました。そして、流通に乗らない魚という問題は僕たち料理人にとっても重要で、真剣に取り組むべきテーマです。
わずか3日間でこの2年間に望んでいたことがすべて叶ったような、満足度100パーセントの旅でした。祖父はよく「何かを変えるには、根を深く張らないといけない」といっていましたが、僕も根を深く張り、未知なる味を求めて貪欲に研究し、新しいイタリア料理を作り上げていきたいと思っています。